1.口蹄疫ウイルスの性状

  1)分類と形態
  口蹄疫ウイルスはエンベロープを持たない直径21〜25nmの球形ウイルスで,ピコルナウイルス科(Family Picornaviridae)のアフトウイルス属(Genus Aphthovirus)に分類される[68, 100].ウイルス感染細胞の培養上清中には,沈降係数146Sの完全粒子,75Sの中空粒子,12Sサブユニット,ウイルス核酸およびVIA(virus-infection-associated)抗原などの非構造蛋白質が検出される[68, 100].146S完全粒子は,ウイルス核酸1分子を核にそれぞれ60分子の4種類のキャプシド蛋白質(VP1,VP2,VP3,VP4)が規則的に集合した構造を持つ.これら4種類のキャプシド蛋白質を持つ最小構成単位をプロトマーと呼ぶ.146S完全粒子は,免疫原として重要で,不活化ワクチンにおいても,その含有量の多少はワクチンの有効性を左右する.75S中空粒子は,146S完全粒子と核酸を持たない点で異なる.12Sサブユニットは,VP1,VP2およびVP3の5量体である.VIA抗原は非構造蛋白質P3から解裂した3D蛋白質で,分子量約57×103ダルトンのRNAポリメラーゼである[68, 100].
  2)温度とpH感受性
  口蹄疫ウイルスは,一般的に低温条件ではpH 7.0〜9.0の中性領域では安定であるが,完全粒子と中空粒子は加熱処理やこのpH域外では最終的に12Sサブユニットに分解し,免疫原性と感染性を失う.このウイルスは,pH 4では15秒間で,pH 6では2分間で不活化されるが,pH 7では数週間生残する.pH 7.5で加熱すると,61では30秒間で,また55では2分間で不活化されるが,4では18週間生残する[43].しかし,pHの変動や加熱に対する抵抗性はウイルスのタイプや株によって異なっている.たとえば,pHの変動に対しては,Cタイプ(Noville)はAやOタイプのウイルス株に比較して影響を受けやすい.また,加熱に対しては,AとAsia1タイプが最も抵抗性を示し,次いでOとCタイプ,およびSATタイプの順に抵抗性は減弱する[30].なお,口蹄疫ウイルスはエーテルやクロロホルムなどの有機溶媒には抵抗性を示す.口蹄疫が発生したときの消毒薬には,このウイルスのpH易感受性から,安価で大量に調達できる酸や塩基性の薬剤が推奨され,酢酸やクエン酸あるいは水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどが使用されている[103, 115].


Fig. 1 口蹄疫ウイルス遺伝子の構造と各ウイルス蛋白質の切断部位
ポリ蛋白質領域から切断される各ウイルス蛋白質は,L434(L,P1,P2およびP3の12種類の蛋白質)で呼称される.このうちP1はウイルス構成蛋白質で,1A1B,1C,1Dは最終的にVP0(VP4+VP2),VP3およびP1の各ウイルス構造蛋白質になる.(武田直和,1992年より抜粋引用)