一般的衛生管理プログラム(GMPとGAP)の重要性

  HACCPシステムは単独で機能するものではなく,その適用に当たっては安全で良質な原材料の使用および清潔で衛生的な環境を確保しておくことが前提条件となる.Codex委員会では,これらの具体的内容について“食品衛生の一般的原則”と題する文書を示し,これではどうしても確保できない食品の取り扱いに直接関係する重要な事項を,付属文書の“HACCPシステムおよびその適用のためのガイドライン”でカバーするという考え方が食品衛生管理の基本的手順であるとしている[1].米国では,食品の製造加工における衛生的環境整備のための基準としてGMP(Good Manufacturing Practice:適正製造基準)という概念を法的に規定している[4].もともと,HACCPシステムとはGMPではどうしても解決できない衛生上の問題を科学的根拠に基づいて確実に管理することを目的として開発されたシステムである.一方,わが国では,これらの規則に示された内容を“一般的衛生管理プログラム”と称しており,従来から都道府県で定めている施設基準ならびに管理運営基準がこれに相当し,衛生規範に記載されている事項もこれに該当する.したがって,一般的衛生管理プログラムが適正に設定されていなかったり,それらが守られていなければ,衛生管理のポイントが多くなってしまい,精度の高いHACCPシステムが実行できない.たとえば,食品の製造加工設備や器具の洗浄・殺菌は安全な食品を生産する基礎となる重要な管理要件であるが,食品の安全性を脅かす危害を直接制御する手段とはみなされず一般的衛生管理プログラムで管理する.すなわち,病原微生物が存在しない安全な畜産食品を消費者に提供するには,病原微生物が存在しない原材料の使用が基礎となり,一般的衛生管理プログラムで衛生的な作業環境を確保することにより汚染防止を確実に行い,特に衛生管理上重要な工程ではHACCPシステムを適用した食品の取り扱いにより病原微生物の増殖防止や排除を行わなければならない.原材料の安全性については,その供給者が保証し(SQA:Supplier Quality Assurance),原材料の受け入れに当たっては品質保証書により,供給元に対して安全性の高い原材料を求めることになる.このような概念は,図1で示したように原材料,作業環境,食品の衛生的取り扱いの3条件がピラミッド状に組み合わさった状態であり,食品衛生の一般的概念でもある.


図1 食品衛生管理の一般的概念