一方,米国では農場の一般的衛生管理プログラムを食品の製造加工におけるGMPと区別してGAP(Good Agricultural Practice:適正農業基準)と呼び,GAPとHACCPを組み合わせることにより安全な畜産物をシステムとして生産・供給しようとしている[11].食品の製造加工施設における衛生管理の考え方を農場に適用すると,サルモネラや病原大腸菌O157などを保菌していない健康な家畜を生産するには,まず原材料に相当する素畜は病原菌を保菌していないこと,および飼料は病原微生物に汚染されていないことが基本となり,幼畜は清潔で衛生的な環境下で感染防止を確実に行い,HACCPシステムを導入した飼育管理により家畜から病原微生物の排除を行うということになる.
  表2に以上のまとめとして,Codex委員会の“食品衛生の一般的原則”の考え方に基づくGMPとGAPの概念を比較してみた.食品の製造加工における最終製品は食品そのものであり,製造加工ラインは食品媒介病原微生物の汚染防止に配慮されていなければならない.一方,農場における最終製品は生きた家畜であり,その生産・飼育は動物の健康管理,動物同士の水平感染の防止などが重要になってくる.
  なお,一般的衛生管理プログラムの事項を実行するための手順を文書化したものをSSOP(Sanitation Standard Operating Procedure:衛生標準作業手順書)といい,作業担当者,作業内容,実施頻度,実施状況の点検および記録の方法などを具体的に文書化したマニュアルを作成しておくことが必要である[2].

HACCPシステムの導入

1.HACCPシステムの特徴
  HACCPとは,Hazard Analysis and Critical Control Pointsのそれぞれの単語の頭文字をとった略称で,行政的にはHAは危害分析,CCPは重要管理点(必須管理点)と邦訳されており,この2つを組み合わせ,さらに管理基準(CL:許容限界ともいう),モニタリング方法,改善措置,検証方法,記録の維持管理のいわゆる7原則から構成される食品の衛生管理システムである[2].次のような特徴がある.
  1)安全性確保が目的
HACCPシステムでは食品の安全性に関係することのみが対象となり,特に食品媒介病原微生物に対して有効である.わが国では食品衛生法第4条および第7条の成分規格違反に該当するものを食品衛生上の危害として,これら危害の制御が対象になり,安全性に直接関係のない事項は対象にしない.しかし,ISO 9000シリーズのような品質管理システムとの併用により安全性と品質両面を同時にカバーできるといわれている.
  2)危害の予防が目的
対象食品について,あらかじめ発生する可能性のある危害およびその発生防止措置を明らかにし,これに基づいて作成されたHACCPプランといわれる衛生管理計画により衛生管理を行う.そのため,危害発生時の対応が容易である.