病     因

  1974年ドイツでPK-15細胞の迷入ウイルスとして,形態学的にピコルナウイルスに似る小型球形ウイルスとパポバウイルス様粒子が検出された[37].その後の研究によりピコルナウイルス様ウイルスは,エンベロープを欠く直径17nmの粒子で,1.76kbの一本鎖の環状DNAを含むことが明らかになった[23, 34].このような性状をもつウイルスは従来記載されていないのでPCVと命名された[34].PCVはウイルス粒子の主として物理化学的性状に基づいて,鶏貧血ウイルス,オウムサーコウイルスおよび数種の植物ウイルスとともにサーコウイルス科(Circoviridae)に分類されている[22, 32].しかしながら,これらのウイルスの間には抗原的関係もDNA配列の相同性も認められていない[38].
  PCVは多くの国の豚の間に広く分布し,それに対する抗体の陽性率はドイツのと殺豚と2〜3歳の繁殖豚では85%[35],カナダの豚血清では26〜55%[10],英国で無選択的に集めた豚血清では86%[11],アイルランドの豚血清では92%[6]に達した.抗体は牛,マウスおよび人の血清にも高率に検出される[33].このように高い抗体陽性率にもかかわらず,それに関連する疾病はまったく認められない.さらに感染培養細胞由来のPCVを接種された豚では,ウイルスの回収,ウイルス抗原の出現および抗体の産生によって感染の成立が確認されるが,臨床症状も病変も認められない[2, 35].これらの成績に基づいてPK-15細胞由来のPCVは非病原性であるとされ,PCV-1と呼ぶことが提案された[4, 5, 24].
  1997年に豚の離乳後全身性消耗症候群(postweaning multisystemic wasting syndrome:PMWS)と命名された新しい豚病がカナダ,スペインおよびフランスから相次いで報告された[9, 15, 21, 29].本病は臨床的には進行性の体重低下,呼吸困難および体表リンパ節の腫大により,病理学的には全身の諸器官・組織に広範に分布する炎症性病変により特徴づけられる[16, 29].これらの病変部には免疫組織化学的にPCV抗原が,in situ hybridization(ISH)によってPCV核酸が検出されることから,原因としてPCVの関与が強く疑われた.1998年にいたって新しいPCVがカナダ,米国,フランス,スペイン,デンマークおよび北アイルランドのPMWS罹患豚から相次いで分離された[3-5, 17, 25].さらに患豚の組織乳剤あるいは細胞培養に分離継代されたウイルスを子豚に接種して,PMWSに特徴的な病変が再現された[1, 7, 13, 21].