豚のサーコウイルス感染症

田 島 正 典

日本生物科学研究所(〒198-0024 青梅市新町9-2221-1)

Porcine Circovirus Infection in Pigs

Masanori TAJIMA

Nippon Institute for Biological Science, 9-2221-1 Shin-machi, Ome 198-0024, Japan

 豚サーコウイルス(porcine circovirus:PCV)にはPCV-1とPCV-2の2型が知られている.PCV-1は豚腎株化細胞PK-15(ATCC CCL31)に持続感染している迷入ウイルスとして分離されたもので,豚に対して非病原性である.このため本ウイルスを非病原性PCV(nonpathogenic PCV : npPCV)と呼ぶ著者もいる[14].これに対して,PCV-2は近頃いうところの『新興ウイルス感染症』の一つである豚の離乳後全身性消耗症候群(postweaning multisystemic wasting syndrome:PMWS)*と密接な関係にあることが明らかにされている.このため本ウイルスはPMWS関連PCV(PMWS-associated PCV : pmwsPCV)と呼ばれることもある[14].
  PMWSは1997年にカナダで記載されて以来,米国およびヨーロッパ諸国に広く蔓延し,養豚産業の大きな脅威になっている.わが国におけるPMWSは久保[19]によると,1996年に初発が認められて以来,12道府県に発生している.最近,山形県で発生した1死亡子豚の検索によって,わが国におけるPCV-2の存在が確認された[26].
  本稿では本病の重要性に鑑み,PMWSおよびそれと密接な関係が認められているPCV-2を中心に最近の研究成果を整理してみた.なおPCV-2がPMWSの病因において主要な役割を演ずることは一般の認めるところではあるが,それが単一の病原としては同定されていない.それゆえ,本稿でいうPCV感染症はPMWSと同義でないことを断っておかなければならない.

*PMWSに対して離乳後全身性消耗症候群の訳語をあてた理由は,本病では諸臓器のみでなく,全身の諸組織・細胞も侵襲されるから,多臓器性(multiorganic)よりも広い意味をもつ全身性(multisystemic)のほうが適切であること,またwasting diseaseに対しては消耗性疾患の訳語が一般的になっていることによる.