1.「インフォームド・コンセント」の徹底について
  日本獣医師会では,獣医師倫理の総論的事項として「獣医師の誓い―95年宣言」(724〜5頁に掲載)を,また,獣医療に関わる各論的事項として「動物医療の基本姿勢」(726〜7頁に掲載)をそれぞれ定め,各地方獣医師会を通じて会員獣医師に対する指導を行ってきました.
  その一方で,最近ごく一部の心ない獣医師による過剰診療,医療過誤,高額診察料といった問題がマスメディアで取り上げられ,獣医師・獣医師会全体に対する信頼が揺らぎかねない事態となっています.
  日本獣医師会では,こうした背景のなか,平成11年度の重点事業として,「インフォームド・コンセント」(IC)の徹底などを推進することといたしました.
  動物医療におけるICとは,適正な医療サービスを提供することを目的として,獣医師と飼い主とのコミュニケーションを深め,診療に際し,受診動物の病状および病態,検査や治療の方針・選択肢,予後,診療料金などについて,飼い主に対して十分説明を行ったうえで,飼い主の同意を得ながら治療等を行うことを意味します.
  今回のIC徹底宣言は,上の事項を改めて会員獣医師に徹底し,その姿勢を飼い主をはじめ一般に理解していただこうというものです.
  同時に,会員獣医師はその姿勢を示すため,IC徹底宣言を示すポスター(735頁に掲載)を診療施設に掲示するとともに,日本獣医師会が作成した診療料金表の例示様式(略)に従って診療料金を明示した料金表を診療施設の待合室などに掲示します.
  小動物の医療は,人の医療と技術的面では同様であるものの,その目的や社会的要求,あるいは動物に対する考え方は大きな違いがあります.従って,小動物のICと人のICも基本的には同じですが,異なる面もあります.
  人に対する医療とICは,基本的には医師と患者の間で成立するのに対し,動物の医療は,動物と動物の所有者(飼い主)そして獣医師の三者で成立します.また,人の医療では救命が最優先されますが,動物の医療では必ずしも救命が優先されるとは限りません.
  従って,獣医師は,飼い主の意識と希望を十分に踏まえたうえでICによる医療を提供することが要求されることになります.小動物などのペットの生命についての意識は,その飼い主によって大きく異なり,救命を最優先する飼い主の方もいれば,ペットの苦痛を思いやり,安楽死を選択する飼い主の方もいます.
  日本獣医師会では,このたびの小動物医療に関するICの徹底を機に,ペットの医療や生命に関する社会の意識を喚起し,獣医師と飼い主とのより良い信頼関係を築いていきたいと考えています.