「かくして学問の自由は崩壊する」を読んで星野たかし(岡山県獣医師会)
前略,上原先生.先生の「かくして学問の自由は崩壊する」を拝見し,その鋭い御指摘にまったくもって共感する次第です.私も,以前よりフィラリア(F)予防薬に関する議論に,何か欠落した,そして今なお世界のあちこちで,偏ったナショナリズムに煽られ,悲惨な戦争へと引きずり込まれる,またかつて日本もそうであったのですが,盲信の中の危うさを感じるのです.「制度は尊重すれど,盲信はせず.」常に,これでよいのかと自問自答する必要があると思います.何故,私がこの議論に危惧を抱いたかと申しますと,原価の安い薬を使って暴利を得るのは悪,適用外使用の違法性という,錦の御旗を立てて,問題のすべてをそこに帰結させようとする論理に,危機感を持つからです.この主張自体に間違いはありません.牛用イベルメクチンを犬のフィラリア予防に使用し暴利を得るのは許せない.世間で獣医師のモラルが問題になっている折り,利潤を求めて安い薬を処方するのはモラル的にいかがなものか,ということでないでしょうか.ではこれを取り締まるにはどうするか.適用外使用ということで取り締まれるではないか,という結論に達したのでしょう. しかしこの考え方はあまりにも安易すぎます.その使用に対する批判の根拠のなかで,許可されていない薬の使用で起こる被害から消費者を保護すると謳ってますが,何故,牛用イベルメクチンが犬のフィラリア予防に使用されだしたか考えると,一概に否定できない気がします.またその他の効用などを考えれば,患畜および飼い主にとって不利益よりも利益のほうが勝っていると思われます. ですから,その使用を制限することは,自らの裁量権を放棄することであり,飼い主にとっては飲ませにくくて高い薬を買わされるということになり,逆に獣医師およびメーカーの利益保護がその裏に隠れているのではないか,という疑問が湧いてきます.それが意図的でないにしても,結果的にその疑いが出てくるということです. 人医のほうで,抗がん剤のメトトレキセートがリュウマチに能く効くということがわかったのですが保険適用外であったため実費で処方されておりました.現場からの要望のすえやっと適用認可されたのですが,その薬価は同じ薬なのに10倍以上であったのです.同様に,腸炎の薬でサラゾスルファピリジンもリュウマチへの適用が認められ,その薬価は3倍にあがりました.厚生省の言い訳は,同等の薬効を持つ薬の薬価を基準にしたということであります.まったく患者不在もはなはだしいものがあります.人医ですらこうですから,この問題に関する獣医師会の対応は,薬の安全性,裁量権,インフォームド・コンセント等について,もっと思慮深くなされるべきだと思います. 私がイベルメクチンをフィラリア予防に利用できることを知ったのは,昭和60年であります.アメリカの雑誌に掲載された論文を読んでからです.広域スペクトラムを持った駆虫薬で,犬のミクロフィラリアの駆除,フィラリア予防にも効果があるという内容だったと思います.それまでのフィラリア予防と比べ,安全性,投与の簡便さに優れ,月1回投与というのは何よりも飼い主にとって朗報だろうと考え,使用しました.もちろん飼い主の同意の上であります. 当初牛用イベルメクチンを希釈してフィラリア予防に使用していた先生方は,私と同じように考えて使用していたと思います.使用してみて,便利でよい薬だと実感しました.ただF感染犬への投与は注意が必要だなと感じました.余談ですが日本でのカルドメック発売当初,かなり感染犬での安全性を強調していたのでちょっと疑問に感じていたところ,やはり感染犬での副作用の問題がおき,許認可制度の有効性について考えさせられました. |
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