アメリカでイベルメクチンがF予防に利用できるということで犬用製剤が発売され,私としては牛用製剤をいちいち調合して犬に投与するのが手間であったため,早く日本でも認可されることを待ちわびていたのです.やっと日本でも発売されるにいたり,まず驚いたのはその価格でした.はっきりは覚えていないのですが,確かアメリカの5倍ぐらいしたのではなかったかと思います.今ではアメリカは値上がり,日本は実質価格が下がってそれ程の差はなくなりましたが,当時はびっくりしました. この価格設定には,消費者を抜きにしたメーカー側の思惑と,獣医師側の思惑が絡み合った不条理を感じました.つまりメーカーとしては利潤の取れるものは最大限の利潤を,獣医師側としては現状の売り上げが下がらないほうがよいという思惑から決められたのでしょうか. このように初めに牛用イベルメクチンがあり,次に高価な犬用イベルメクチンと続き,確かに牛用は牛,犬用は犬に適用で認可されていますが,牛用を犬に使用することの使用例および安全性が多く報告されている中,単に適用外使用として,特にそこに焦点を当てて糾弾することは,獣医師会のとるべき姿勢ではないと思うのです.原因をなおざりにして結果だけを問題にしているから,マスコミに,インチキ水薬,悪徳獣医師という記事が載るのだと思います. メーカー側は,許認可に経費がかかったから高くなったと弁明するかもしれません.ならば何故獣医師の側から行政に,許認可の簡素化を求める声が上がらなかったのでしょうか.欧米からの外圧によって,人の方でやっと欧米との間で,医薬品の許認可の簡素化が図られるようになって,それに伴って農水省の方も動き出しているのですが,外からの圧力によって動かざるを得なくなって動くというのが行政です. 法律は,その構成単位である国民が不利益を被らないよう,また最大の利益を得るよう決められるべきものです.法律ですべてを決めることは不可能であり,またそれは現実的でありません.最大公約数的に決められています.適用外使用に関しても,申請された動物に関しての安全性は保証しましょう,その他に関しては申請されていないのでわかりません,という意味だと理解されます.適用外使用を盾に取り,他の動物種への処方を禁止すると,非常に限られた獣医療の提供しかできなくなり,動物や飼い主にとって不利益になることもあるのではないでしょうか. 獣医師が対象としている動物種は鳥,魚,爬虫類,哺乳類と多岐にわたり,適用外使用を規制することは現実的でありません.薬品メーカーの薬の許認可申請に関しては多分に経営戦略的要素も関与しており,そのところを冷静に判断すべきであります.つまり飼い主や動物に重大な不利益があるのかないのかという点において判断すべきであります. 私が飼い主なら,同じ薬効成分なのになんでこんなに値段が違うの,安い方でも効果があるのだったら,安い方でいいから安くして欲しいと思います.飼い主のことを考える獣医師なら,同じ成分なのに錠剤になっただけでなんでこんなに高いのか,とメーカーに疑問を呈すると思います.価格というものは,そのコストと付加価値によって決められます.付加価値つまり安全性,処方しやすさ,嗜好性等がその価格に見合ったものかどうかも考えるべきでないでしょうか. 最近メーカーの方も嗜好性を考えてチュアブルタイプ,アメリカではフレーバーを添加したもの,その他複合剤にしたもの,またスポットタイプのものが出ており,それぞれ付加価値を高める戦略を取ってきています.このことは飼い主にとって投与しやすく喜ばしいことであり,それなりに納得できることではないでしょうか. 実際,チェアブルタイプ等付加価値のついたものが発売され,また実質値段も下がり,投与しやすいということで,わざわざ牛用を処方することもなくなるのではないでしょうか.この問題に対して,対応しきらないうちに,メーカーの方が付加価値を付けるという方向で,いち早く対策を取っており,今後は投与しやすいチェアブルタイプ,スポットタイプにシフトしていくのではないでしょうか.獣医師会の対応のまずさだけが残った感がいたします. 裁量権の問題も含め,F予防の利権に惑わされることなく,純粋に学術的に議論し,また消費者にも納得のいく議論がなされることを望みます. |
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