本誌では,平成11年1月号から,読者の皆様に誌面づくりに参加していただき,より身近な雑誌として感じていただけるよう,「私もひとこと」のコーナーを新設することといたしました. 本企画は,テーマをより個別のものとし,さらに,1カ月ごとにテーマを変えるのではなく,半年間程度同じテーマのご意見を募り(平成10年11月号709頁参照),誌上で会員の皆様に意見交換,意見のキャッチボールをしていただけるよう配慮いたしました.本号より標記テーマについてのご意見を紹介いたします. 松永昭武(熊本県獣医師会)
「かくして学問の自由は崩壊する」を読んで星野たかし(岡山県獣医師会)
イベルメクチン製剤を犬フィラリヤ症予防薬としての利用の是非松永昭武(熊本県獣医師会)
この問題は注射薬を経口薬にして使用することの是非,という問題であると思う.他に同等の有効薬剤がない場合にかぎり,注射薬を経口薬(外用薬)として,また,経口薬を注射薬にして使用することは,獣医師の裁量範囲であると思われる.52巻2月号で述べられる通り,塗布薬としての使用は獣医師の裁量範囲内であろう.51巻10月号で述べられるごとく,錠,チュワブル剤型を服用させにくい犬に,水薬の形にしたらよく服用する.だから,注射剤を経口させる.これは裁量範囲外と思われる.何故なら,現に顆粒はあるし,錠剤を粉末にし水薬とすればこと足りるからである. この場合,当然,イベルメクチンを注射すれば裁量範囲内であろう.何故なら他に注射薬はないからである. 要するに,薬事法では注射薬として認められた薬剤を経口,外用として使用することは,他に同等な有効薬剤がないかぎり,獣医師の裁量内ということで認められている. また,同等有効薬剤を使用して,その効果が認められない時は,注射薬を経口薬として使用しても,それは獣医師の裁量範囲内ということになる. 52巻7月号で述べられるごとく,人体用ACE阻害剤が多用されたとあるが,動物用薬剤として承認発売がなければ,それは獣医師の裁量範囲内であり,議論は起きなくて当然なのである. 51巻10月号で述べられている産業動物用イベルメクチン製剤使用=詐欺行為の議論は薬事法を無視した使用法は適法でない,ということであろう. 経口水薬として使いたいなら,カルドメック,ミルベマイシン,モキシデックで水薬を作製しないのか? 服用しないというのなら何故注射をしてあげないのか? という疑問がでてくる. 法に沿った使用法が幾通りもある.にもかかわらず,法に沿わぬ使用法をされている,だから詐欺行為といわれるのであろう.このような問題は人薬の方でも起きていて,散々議論し尽くされて結果もでている. 18年ほど以前,バイアグラで著名となったファイザー製薬が,「ポリミキシンB注射」という薬を発売していた(現在は外用のみ承認).この薬は注射薬としては腎障害という副作用が強く,注射薬としては非常に使用を限定される薬であった.ところが,リポポリサッカライド(=エンドトキシン)を破壊する作用が注目された.経口してみると腸管由来のエンドトキシンをクリアする薬として一躍脚光を浴びた. ファイザーは経口薬を作るといい,経口薬の承認を得るも,実際は,経口薬を発売せず,注射薬を経口できるようにする方法,水薬や粉末剤に調剤する方法のみを病院,医師に伝え,使用をうながした.結果,法はファイザーに対して,発売中止を命ぜぬかわりに,すみやかなる経口薬の発売を命じ,医療機関に対しては注射薬を経口薬として使用したのは違法であるとし,請求した金額を返金しなさいと命ぜられた.何故か? エンドトキシン破壊は学会では認められていても承認はされてないので,法の見解は経口抗生物質としては他に多くの製剤があり,それを使用すべきであるとのことであった.このように薬効が学会で認められて,多数の医師,獣医師が使用したい,使用する,としても,薬事法における承認とはまた別の次元の問題である.われわれ獣医師は獣医師法でしばられているように薬事法でもまたしばられていることを御理解下さって,御処方をお考え下さることを願う次第である. |