無発情牛の発情誘起

  牛の無発情無排卵は,優性卵胞の形成がみられないことよりはむしろ,発育した優性卵胞が排卵しないために起こる[27, 42].無排卵牛に対し排卵を起こさせる実用的なホルモン処置として,LH,hCG投与あるいはGnRH投与によりLH分泌を起こす.プロジェスターゲン処置と処置の開始時にエストラジオール投与を行う.
  1)hCGやGnRHの利用:hCGの役割は,卵胞内でLHレセプタと結び付き,直接的にLHの黄体化効果を代用することである.GnRHは直接下垂体前葉に働き,LHやFSHの一過性(2〜3時間)の分泌を起こすが,優性卵胞が選択される前ではGnRHを投与しても排卵は誘起できない[36].分娩後のある特定な時期におけるGnRHの無作為な利用法については,結論的な結果を得ていない[46].卵胞波の交代時期に視点を置くと,そのような無作為な利用法は疑問である.Riscoら[32]は乳牛の発情周期を回帰させるために,GnRH(発情周期の14日と15日)とPGF(分娩後21日,34日,57日)の連続投与を行っている.この処置により初回排卵までの日数が短縮し,直腸検査で嚢腫卵胞が触診される機会が少なくなるが,処置群と対照群での繁殖効率には差がなく,これはおもに牛群での発情発見率の低下による(42%).
  2)プロジェステロンの利用 分娩後の無発情期間中に,排卵を伴う発情を誘起する方法としては,短い発情周期[15]と初回排卵時の無発情を避けるためにプロジェステロンで前処置する[26],プロジェステロン処置終了後に存在する優性卵胞からのエストロジェン産生を増加させ,排卵前のゴナドトロピンのサージを起こすことがあげられる. LHパルス頻度が抑制されているような場合として,たとえば,高泌乳牛でのNEB,授乳している肉牛でBCSが低い場合(<BCS,2.0),授乳している肉牛で分娩後50日以内がある.
  プロジェステロン処置では,ゴナドトロピンの併用,たとえばウマ絨毛性性腺刺激ホルモン(eCG)投与が排卵前卵胞からのエストロジェン産生を増加するのに必要である.eCG投与時の卵胞波のステージは排卵数に影響し,卵胞波の発現時に600IU投与すると,多排卵となる[11].
  最近,ニュージーランドで,7日間のプロジェステロン処置後,48時間以内に発情を示さない牛に安息香酸エストラジオール(ODB)1mgを注射する方法が開発された[19].
  一般に,肉牛では分娩時のBCSの状態により,2.0以下では無発情期間が延長する,2.5以上では分娩後30〜60日以内に発情が発現する.
  この無発情期間は,1日1回の授乳で10〜15日間短縮できる,母子の絆を絶つことで10〜15日間短縮できる(図5).