分娩後の卵巣機能の回復

  分娩前に血中エストロジェン濃度が非常に高くなり,同時期に高いプロジェステロン濃度とともにLHやFSH濃度を抑制している.その結果,分娩前には卵胞波は一般に抑制されている[14].分娩後1〜2週間以内に,FSH濃度の増加が2〜3日あり,分娩後最初の卵胞波の出現と優性卵胞の選択が起こる(図3).分娩後,初めて発現した優性卵胞には3つの異なる運命がある.それは,排卵して黄体を形成する,閉鎖して2回目の卵胞波が2〜3日後に出現する,卵胞嚢腫となり(排卵が遅れ),分娩後2回目の卵胞波の出現を種々の期間,抑制するものである.


図3 代表的な2頭の肉牛における分娩前後の血中FSH,LH,プロジェステロン,エストラジオール濃度(logスケール)および卵胞の直径

 分娩後の初回優性卵胞の出現時期は,乳牛で10〜12日である[17, 38].授乳している肉牛では分娩後の無発情期間は乳牛より長く,新しい卵胞波は分娩後2週間で出現し,また,初回優性卵胞の形成は2〜3日遅れる[27, 42].しかし,授乳している肉牛では,分娩後の初回優性卵胞の排卵率は低く(11%),分娩後の長期間無発情の原因は,優性卵胞の発育の遅延よりも,その排卵障害にある(表1).乳牛では,初回優性卵胞はLHパルスが3.5〜4.5回/6時間で排卵するが,1.7〜2.2回/6時間では閉鎖する[3].分娩後初回排卵までの日数は,1〜10段階のボディコンディションスコア(BCS)において,分娩後のスコアの損失が0.5以下,0.5〜1.0,1.0以上ではそれぞれ29,36,50日となる[3].乳牛や肉牛では血中IGF-1濃度は初回優性卵胞の排卵と関係する[3, 43].そのため,成長ホルモンやインスリンなどの代謝性の要因は重要である.