発情周期の制御

  牛の発情周期の長さは,黄体からのプロジェステロン分泌により制御されている.黄体は優性卵胞(dominant follicle:DF)の排卵後,破裂した卵胞の顆粒層細胞と卵胞膜細胞の黄体化により形成される.プロジェステロン濃度は,牛では排卵後徐々に増加し,黄体初期に持続的に増加する(発情周期の1〜5日; 発情日=0日).そして,発情周期の8〜11日に最高濃度となる(図1).プロジェステロンによるLH分泌に対するネガティブフィードバックには,GnRHの神経機能を調節する抑制神経経路の刺激により,視床下部からのGnRH分泌の抑制が介在している[9].
  非妊娠牛では発情周期の16〜18日に,オキシトシンにより誘起されたプロスタグランジンF(PGF)の子宮内膜からの分泌により黄体が退行し,プロジェステロン濃度は24時間以内に0.5ng/ml以下となる.そして,牛は発情期となり,LHのパルス頻度や血中濃度が増加する[31].黄体退行と同じ時期に存在し,選択された優性卵胞は顆粒層細胞のLHレセプタの数を増加させ,エストラジオール濃度の増加を刺激し,発情前期となる.エストラジオール濃度の増加は,GnRHパルス頻度の増加を刺激し,GnRH放出の延長したサージとなり[25],排卵前のゴナドトロピンサージと排卵が起こる.発情周期の2〜8日におけるプロジェステロン濃度の増加は,その後のインターフェロンτ(タウ)の産生と妊娠牛の胚のサイズに影響する[21].
  黄体期では,LH濃度は基底値にあるのに対し,FSH濃度は発情周期を通して7〜10日ごとに増加と減少を繰り返し,新しい卵胞発育の波の出現と関連している[1, 44].それゆえ,牛の発情周期のプロジェステロンはおもにLHパルス頻度を調節し,一方,エストラジオールとアクチビン―インヒビンのバランスはFSHの分泌を調節する.


図1 牛の発情周期における血中ホルモン濃度
   頻回のFSHの増加はシャドウ部で,異なる発情周期における代表的なLHパルス頻度は上部ならびに実線はプロジェステロンに分けて示した.