分娩後の牛の繁殖効率

―乳牛と肉牛の分娩後の繁殖向上対策―

Reproductive Efficiency in Postpartum Cows
J.F. Roche1)and M.G. Diskin2)

1) Department of Animal Husbandry and Production, Faculty of Veterinary Medicine University College Dublin, Dublin, Ireland
2) Teagasc, Athenry, Co. Galway, Ireland

ま え が き

  乳牛や肉牛の生産農家において,繁殖効率の低下は,生産コストの増加となり,乳量の減少や受胎までの授精回数,廃用牛の増加につながる.牛の繁殖にかかわる問題は,個々の牛と群全体の問題に分けられる.前者では,胎盤停滞や子宮感染,卵巣嚢腫,リピートブリーダー症候群があり,後者としては牛群全体の無発情牛の増加,発情発見率の低下,全体的な受胎率の低下があげられる.
  繁殖牛群の管理で目標とされる点は,1年1産で健康な産子を得ること,子牛の遺伝的能力を向上させること,305日の泌乳期間を守ること,更新率を低く抑えること(<20%)である.
  高い繁殖効率を維持するためには,分娩後6週以内に子宮が正常に修復し,発情徴候の発現と排卵が回復し,確実な発情発見と人工授精後の高い受胎率が必要となる.人工授精により高い繁殖効率を達成するためには,二つの基本的な要因が必要である.それは,1年のうち,特定の時期に限って交配する季節繁殖の開始後3週間以内に,発情周期をもつすべての牛に対し人工授精を行うこと(授精実施率),正常な卵子の排卵前12〜18時間に高品質の精液を子宮内に注入し,高い受胎率を得ることである.本論文の目的は,牛の繁殖に関する最近の情報を整理し,従来行われてきた,また,最新の治療法の科学的合理性を検討するものである.

GnRH分泌のコントロール

  性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)は,下垂体前葉からのLHやFSHの合成や分泌をコントロールし,繁殖機能を制御するキーとなるホルモンである.GnRHは,下垂体前葉のゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)分泌細胞の特殊なレセプタに結合するが,このGnRHの効果は一時的で,もしGnRHが持続的に存在すれば下垂体の感受性がなくなる(GnRHレセプタのダウンレギュレーション).GnRHの分泌パターンは,GnRHニューロンに作用する複雑な神経ネットワークにより制御されている.このネットワークに作用するおもな要因には,哺乳や栄養などの外因性のものや,プロジェステロンやエストラジオール濃度などの内因性のものがある.GnRHの分泌パターンは,逐次LH分泌の特定な律動的パターンを左右するが,FSHはいったん合成されると,そのまま体循環に分泌され,GnRH分泌による制御は部分的である.FSH合成は,また,下垂体前葉内でアクチビン結合蛋白であるフォリスタチンとともにアクチビン―インヒビン軸により局所的に制御される.このように,LHとFSHは別々に制御され,それらの血中濃度は発情周期と分娩後の産褥期に変化しているが,いずれも単一の放出ホルモンの影響下で同じ細胞から産生されている.