アメリカの獣医学部の学部長を決めるのは教授会でなく,大学総長もしくは副学長の決めた10人ないし20人の選考委員会で,できるだけ多くの候補者を世界から公募し,その中から書類審査で3〜6人を選んで面接審査を行う.その結果2〜3人の最終候補者に絞り,大学に招待して学部の全教授および一部の学生とも討論し,1〜2名の候補者に絞り,学長の最終決定を仰ぐ.各学科長の選抜も学部長の任命した選考委員会により同様に候補者の中から選ばれる.学部長は大学教授である必要はないが,学部長の約8割は学科長から選ばれており,マネージメントの経験を持った者が多い.これらの指導者はただ単に人気のある,有名な教師ではなく,指導者としての資質と経験とビジョンを持ったプロの人達である.しかも学部長は学部のマネージメントにフルタイムで専念するのである.(ただし,毎年行われる評価調査で学部長が不適当と認められた場合には学長が罷免することができる.)
  アメリカの大学では学部長に指導的権限が与えられ,新しい方針の決定や教員の罷免は学科長を含む約10人程の実行委員会に咨って進められる.この委員会は毎月1〜2回開かれ,必要な場合には教授会に咨ることもある.このように決定権を持つ経験豊かな指導者があってこそ新しい計画を次々と実現することができるのではないかと思う.
  アメリカの制度がそのまま日本に適用できるとは思わないし,この問題は獣医大学のみならず,すべての学部に同じことがいえると思う.しかし,今こそ日本の大学運営の在り方そのものを見直し,学生や社会のニーズに応じた改革を迅速に進めることのできる,若くて有能な指導者を選ぶ必要があるのではなかろうか.そのための選考委員会や思い切った改革を行える実行委員会を獣医学部や学科に率先して作ってもらいたいと思う.さもないと総論賛成,各論反対の悪弊が今後も続いていくものと心配される.また,自己主張を通すために政治家の力を使うようなことは何としても避けるべきであり,特に学問の問題のために政治家を動かすことは慎むべきであると思う.