近年になって,食中毒菌についても類似の問題が提起されている[12].これまで100万個以上摂取しないと発症しないことが食中毒菌と伝染病菌の違いであるとされていたが,大規模な食中毒事故の調査結果から少数摂取で発症した例が確認されるようになった.高危険性集団(High-risk
populations)の割合が増えてきた要因として,高齢化により基礎疾患をもった集団の割合が高くなったり,社会の微生物学的清浄化により移行抗体価の低下と小児期における感作の機会の減少により免疫が付与されていないことが大きい.食鳥肉の細菌汚染に由来する危害を制御するために,FDAが日本で使用されている次亜塩素酸ソーダより10倍以上殺菌力が強い二酸化塩素を食品添加物として承認した背景と考えられる[17,
18].さらに,臓器移植や免疫低下症候群などの患者が増加している米国では,健康成人とは異なった対応の必要性を認め,そうした患者向けに食肉の放射線照射を認可した[8].易感染性患者(Immuno-com-promized
patients)にとっては,照射による未知の危険性よりも,目下の感染の危険性の方が大きいことは明らかであり,特定集団を対象とした対応が必要な時代になっている.こうした場合には,一般の健康成人とは異なる安全性が求められ,細菌を完全に殺滅してしまう放射線滅菌が臨界管理点(CCP)として必要になる.CCPは「重要管理点」と訳されているが,Criticalはどの程度重要なのかといった量的概念ではなく質的変化の境界を意味している.
米国の政策/HACCPとISO 米国では,大統領の命によってFDA,USDA,EPA,CDCが連携した「食品の安全性審議会(National Food Safety Initiative)」ができ,省庁間にまたがる問題の検討と処理の円滑化が図られ,危険性の査定,安全性の管理,研究ならびに教育に関する総合事業を推進している[9, 14].これに応じて,National Academy of Sciencesも獣医大学を中心に「生産から消費までの食品安全性確保(Ensuring Safe Food From Production to Consumption)」の大型プロジェクト(Identification number:FNBX-H-98-02-A)を組んでいる.このように,米国の大学や学術団体は産業や行政の動向を支援する体制を速やかに構築しており,以下の農務省の政策遂行にも大学人が有力なメンバーとして加わっている. |
![]() |
![]() |