危険性と許容量:危険性はゼロであることが最も望ましいが,それが実現不能な場合も多いことは常識の範囲にあるが,ゼロにできるものとできないものについての科学的根拠が国民的理解を十分得ているとは思われない(図4).化学物質の用量―反応関係からすると,一般毒性のように閾値がある物質については科学者が危険性ゼロの1日摂取許容量を定めることが可能であるが,発癌性などの閾値がない物質については危険性をゼロにすることは当該物質を食べないこと以外にあり得ない(パニック下での国民意識).熱帯地方の国では穀類のアフラトキシン汚染が避けられず,肝癌の発生率から危険性は明らかであるが,FAO/WHOは許容濃度を30ppb以下とし,日本では10ppb以下と定めている.それぞれの地域における食品としての有用性と有害性の総合評価の帰結として実質安全量(VSD)が定められる.危険性をゼロにできない場合の危険性の許容限度は,焼き魚の熱分解生成物(Trp Pなど),魚と漬物の摂取による胃内でのニトロソアミンの生成などの日常的な危険率を勘案して100万人ないしは1億人に1人の発癌率を許容しようという社会的合意の形成によってなされ,科学者の任務はその危険率を査定することである.


図4 用量―反応関係と食品の安全性