図3 危険性解析の構図(Structure of Risk Analysis)
以上を要約すると,国際基準はCodex委員会で危険性査定に基づいて定められるが,種々の社会生活体系をもつ国々に共通の最低基準であり,それを上回る基準を定める固有の権利を各国は持っており,その際には危険性査定を実施しなくてはならない,ということである.安全性論議の上で国際的に通用する方法論として,危険性査定がいかに重要であるかがわかるが,この点に関しても日本では十分な理解が広まっていない.
危険性解析:危険性解析こそ,HACCPやISOなどの品質・安全性保証システムの基本的方法論であり,FAOは「危険性解析とは査定,管理,情報交換の3つの独立かつ統合した要素からなる解析」[7]としている(図3).適切な日本語訳がないため,危害(Hazard)と危険性(Risk),査定(Assessment)と解析(Analysis)の区別が十分ではなく,国民はもとより衛生専門家にも混乱がみられる.FAOの定義によれば,危害とは「害になりうる生物学的,化学的,または物理的な食品中の要素あるいはそうした食品の状態」であり,大腸菌O157やダイオキシンなどを指す用語である.他方,危険性とは「危害にさらされた集団における健康障害の確率と重篤度の推定値」とされ,さまざまな危害に対する当該危害の相対的大きさ,当該食品の有用性と危害の程度の把握,管理措置の対費用効果などを判断する尺度となる.また,査定は解析の一部であるが,Assessmentを「評価」と訳したためAnalysisの適切な訳語がなくなり,カタカナ表記かひどい場合は「分析」と訳してある.日本語では「評価」の基礎として「分析」があるので,英文とは概念の包含関係が逆転してしまい,それとともに危険性管理の重要性が薄らいでしまう.SPS協定の翻訳文にもこの表現が用いられているが,危険性解析の構図を正しく理解するために訳語を訂正すべきであろう.この危険性解析は,食品工場における衛生安全対策の立案,管理,再吟味などの保証システムだけでなく,前項でみたように食品衛生行政にも必須の方法論とされている. |