5.「動物医師」という呼称(例示)について
(1) 今日における獣医師の業務内容は,前記3のとおり,家畜の疾病の診断・治療・予防にとどまらず,公衆衛生分野等多岐にわたっており,また,獣医師法上の対象動物も牛,豚,馬や犬,猫等の哺乳類だけではなく,鶏も含まれている.
(2) したがって,歴史的な経緯は別として,今日の「獣医師」という呼称の概念は,上記aの考え方ですでに定着していることから,必ずしも辞書にあるような解釈,定義にとらわれることなく,これまでどおり「獣医師」という名称を使用していけばよいと考えられるし,また,「獣医師」では不都合であるとする特段の理由も見当たらないとの考え方もある.
(3) 一方で,「獣」という言葉の“響き”には従来から余りよいイメージがないことから,「獣医師」を例えば「動物医師」という名称に改めた方がよいとする意見が獣医師や一般の者の中にあるのも事実であり,また,獣医師を扱ったテレビドラマや書籍の中にも「動物医」という呼称を使用している例もみられるようになっている.
(4) さらに,最近,獣医師法第17条で規定されている診療対象動物は別として,特定分野の獣医師が日常経験している診療対象動物には,実験動物,動物園動物があり,また,開業獣医師レベルでも小鳥やアライグマのほか,最近におけるイグアナやトカゲ等の爬虫類をペットとして飼養するケースが増えてきている中で,そのような動物の診療にも開業獣医師が従事するようになってきている現状もある.
(5) このことから,この際,「獣」というイメージから脱皮して「動物」という言葉を用いることとして,「獣医師」を例えば「動物医師」と改称した方が21紀を展望した獣医業のあり方等を考慮した場合,生物学上の「動物」の厳密な定義は兎も角として,いわば“ひろがり”があってよいとする考え方がないわけではない.
(6) しかしながら,公衆衛生分野等では,「動物医師」という呼称が他の分野に比べて馴染みにくいのではないかとする意見もあり,これに関連して,例えば,「獣医公衆衛生」という用語を改称に伴ってどのように表現したらよいかという問題や,獣医系大学の名称,獣医師会の名称等も含め,関係方面に多くの波紋を投じることになろう.
(7) とはいっても,仮に「動物医師」と改称した場合,獣医界のみならず社会一般が新しい呼称に馴染むまでにはそれなりに抵抗感があり,時間もかかると考えられるが,要は一つの割り切りであって,一定期間を過ぎれば新しい言葉に慣れてしまうであろうと予測するのであれば,国鉄がJRに改称された時と同様のこと(比喩として適切ではないかも知れないが)がいえるのではないかと思われる. |