3.獣医界における「獣医師」(あるいは「獣医業」)の概念について
(1) 今日,わが国の獣医界における「獣医師」(あるいは「獣医業」)の概念は,上記2のaの解釈よりも広義なものとなっている.すなわち,その業務には,家畜の疾病の診断・治療・予防業務にとどまらず,公衆衛生分野における狂犬病予防,と畜検査,食品衛生監視指導や動物保護管理,また,バイオメディカル分野における実験動物管理等に及んでいる.
(2) また,獣医業の対象となる動物も,上述の「獣」の定義は別として,獣医師法で鶏も包含されており,さらに,一般的な診療対象として小鳥やその他の動物も含まれている.
4.獣医師の名称等に関するアンケート調査結果について
(1) 平成3年7月に本会が三菱総合研究所に依頼して畜産農家(286戸)および一般家庭(1,001戸)を対象に実施した「獣医業の将来見通しに関するアンケート調査」の中で,「獣医師という言葉から持つイメージ」および「獣医師という名称が適切かどうか」ということを聞いた結果,まず,「イメージ」に関しては,回答形式を自由記述としたため実にさまざまな意見がみられたが,特に多かったのは「動物の医師」という回答であった.なお,次項に関連することではあるが,「獣」という字からくるイメージとして「獣医師という名称は良くない」とする意見も散見された.
(2) 次いで「獣医師という名称が適切かどうか」を聞いた結果は,次のとおりであった.
ア.農林水産分野で使用する名称として「適切である」と答えた者は,畜産農家で72%であるのに対し,一般家庭では41%と低く,「そう思わない」とする回答は,畜産農家の6%に対し,一般家庭で20%であった.
イ.小動物臨床分野で使用する名称として「適切」と答えた者は,畜産農家の68%に対し,一般家庭では61%と農林水産分野で使用する場合に比べて肯定的な回答が多く,また,「そう思わない」とする回答も畜産農家の7%に対し,一般家庭でも15%と同様に低かった.
ウ.公衆衛生分野で使用する名称となると,畜産農家,一般家庭ともに「適切」と答えた者は,農林水産分野,小動物臨床分野に比べて低く,畜産農家が47%,一般家庭が22%で,「そう思わない」とする回答は,一般家庭で32%にのぼり,肯定的な回答と逆転しているのが注目される.
(3) 上記のように,獣医師という名称が適切だとする意見は一般家庭に比べて畜産農家に多く,特に農林水産分野で使用する名称として72%の者が適切であると答えている.一方,適切でないとする意見で最も多かったのは,公衆衛生分野で使用する名称として不適とする回答が一般家庭で3人に1人の割合であった.ちなみに,「わからない」とする回答が多かったのは,公衆衛生分野とその他の分野についてであった.
(4) また,獣医師という名称が「適切でない」と答えた者に対し,「獣医師」という名称に変わるアイデアを聞いたところ,農林水産分野で使用する名称としては,「農林水産医(師)」,「家畜医(師)」,「動物医(師)」とする回答が多く,小動物分野については,「ペットドクター」,「アニマルドクター」,「動物医(師)」とする回答が多く見られた.
(5) しかしながら,これが公衆衛生分野およびその他の分野についてとなると,「動物医(師)」とする回答はきわめて少数で,「衛生医師」,「公衆衛生師」,「環境生物医」,「生物医師」,「公衆衛生技師」,「実験動物医師」,「動物研究医師」,「医薬研究開発医」,「バイオドクター」等,さまざまな回答がみられ,特に多いと思われる名称はなかった.このことは,公衆衛生分野については,獣医師の業務に関し,畜産農家を含め一般の者にとって動物の臨床に直接結びつくイメージが わかないこと(注:実際にはと畜検査における生前診断や動物の保護管理行政における健康相談等があるが)によるものと考えられる. |