HFRSおよびHPSの原因ウイルスはそれぞれいくつかの血清型に分けられるが(表2),おのおのが異なった種類のげっ歯類を自然宿主として持続感染し,人への媒介動物となる.血清型はウイルス遺伝子の系統進化学的解析による分類とも一致するため,ハンタウイルスは,はるか昔にげっ歯類に感染し,げっ歯類の系統進化とともにウイルスも進化を遂げてきたと考えられている[14].このため,人での流行の型は,媒介げっ歯類の生態によって,野生げっ歯類を媒介とする「田園型」,都市に生息するドブネズミを媒介動物とする「都市型」および動物実験に用いるラットを感染源とする「実験室型」の3つに大別して考えることができる.血清型ごとに重篤度,媒介げっ歯類の種類および流行地域が異なることから,流行の予防やコントロールを考える際にはこのような流行の型による分類が重要になる.

表2(クリックすると大きいサイズのものがご覧頂けます)

 HFRSの患者発生はユーラシア大陸全域で広く報告されている[2].一方,HPSはこれまで南北アメリカ大陸でのみ発生している(図1).HPSは1993年に初めて米国で報告され,その高い死亡率のゆえに流行の拡大が懸念されている.HPSウイルスはシカシロアシマウスやコットンラットというアメリカネズミ亜科(subfamily)に分類されるげっ歯類のみを自然宿主とし,それらは南北アメリカにのみ生息することから,現在までのところユーラシア大陸でのHPSの発生は報告されていない[22].しかし,輸入感染症として十分な注意を払う必要がある.


図1 ハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱とハンタウイルス肺症候群)の世界的分布