動物の抗体保有状況

 1950年代にWHOが32カ国で調査した抗体保有と最近の成績とを比較すると,1980年代の家畜の抗体保有率はELISAやIFにより検出感度がよくなったこともあるが,1950年代より明らかに高い.
  わが国では1954年にWHOの依頼を受け,家畜のCF抗体調査が行われ,46県の牛983頭中1.1%にCF抗体が認められている.動物の抗体保有状況を表5にまとめた.健康な牛では16.2〜46.6%に[10, 16, 23, 33],また,繁殖障害病歴のある牛102頭では84.3%に抗体が検出された[30].羊の28.1%[10],山羊の23.5%[10]に,犬では9.6〜16.6%[10, 17, 19]に,飼育猫では6.7〜18.8%[10, 15, 20]に,野良猫では68.6%に抗体が検出されている.野生哺乳類や鳥類約60種に抗体や病原体が検出され,本菌の広範な分布と宿主域の広さが知られている.わが国では,野生のクマ77.8%,エゾシカ68.9%,兎62.5%,ニホンシカ55.6%,キツネ33.3%,サル27.8%,ヌートリア12.5%,カラス35%,ハト6%から抗体が検出された.家禽では,鶏1,589検体中2%,うずら174検体中2.9%,アイガモ238検体中1.3%およびマスコビーダック30例中3.3%が陽性であった[2, 29, 34].

表5 家畜および伴侶動物の IF 抗体
動 物  検体数(県)   陽性数(%)   報 告 者 
329(4) 96(29.2) 吉家ら(1991)
  562(6) 262(46.6) Htweら(1992)
  1,501(9) 382(25.4) Htweら(1992)
  190(1) 59(31.1) 長岡ら(1994)
  198(1) 32(16.2) 山本ら(1996)
256(2) 72(28.1)* Htweら(1992)
山羊 85(1) 20(23.5) Htweら(1992)
635(2) 95(15.0) Htweら(1992)
  591(4) 57(9.6) Nguyenら(1996)
  81(1) 8(9.9) 長岡ら(1996)
  301(1) 50(16.6) 神田ら(1996)
274(2) 0 Htweら(1992)
  100(12) 16(16.0) 森田ら(1994)
  150(2) 23(15.3) Nguyenら(1996)
  101(1) 7(6.7) 長岡ら(1996)
  304(1) 57(18.8) 神田ら(1996)
  86(野良猫) 59(68.6) 安田ら(1998)
IF 抗体価16倍以上を陽性(II相菌),*I相菌

動物からC. burnetiiの分離と遺伝子検出

 著者らは,繁殖障害牛に抗体保有率が高いことに注目し,生乳224検体中36検体,子宮スワブ61検体中13検体から本菌を分離した[25].また,食肉処理場由来の乳房50検体中4検体,流産胎子4検体中2検体および2牧場から収集したダニ約250匹の15プール検体中4検体からもC. burnetiiが分離された.最近,長岡らは犬および猫から本菌を分離している[19, 20].このように,わが国の家畜や伴侶動物などに本菌が広く分布していることが明らかになった(表6,7).また,野生のカラスでは血清と腸管から本菌とその遺伝子が検出され,わが国の野生動物にも広く浸潤していることが示唆された[11, 29].

表6 牛とダニから Coxiella burnetii の分離と遺伝子検出
分離材料 検査数  分離数(%)  報 告 者
生乳 (繁殖障害牛) 千葉,静岡 224 36(16.1) Htwe ら(1995)
  三重,愛媛    
生乳(健康牛) 静 岡 47 17(36.3) 長岡ら(1996)
 生乳-PCR 北海道 62 21(33.9) 村松ら(1996)
 Ab血清-PCR 千葉,愛媛 52 48(92.3) Nguyenら(1996)
子宮スワブ(繁殖障害牛) 千葉,愛媛 61 13(21.3) Htweら(1995)
乳房(健康牛) 岐 阜 50 4(8.0) Htweら(1995)
流産胎仔の脾臓 静岡,三重 4 2(50.0) To Hoら (1995)
マ ダ ニ 岐阜(牧場) 15 4(26.7) To Hoら (1995)

表7 犬,猫およびカラスからCoxiella burnetiiの分離と遺伝子検出
動 物 材  料  検査法   検体数   検出数(%)  報 告 書
Ab血清 分離 6 6(100) 長岡ら(1996)
  Ab血清 PCR 57 37(64.9) Nguyenら(1997)
Q熱患者の飼育
  ネコAb血清
分離 5 5(100) 長岡ら(1996)
  子宮スワブ 分離 29 9(31.0) 長岡ら(1996)
  Ab脾臓 分離 7 1(14.3) 長岡ら(1996)
  Ab血清 PCR 37 28(75.7) 神田ら(1997)
  Ab血清 PCR 23 11(47.8) Nguyenら(1997)
カラス Ab血清 PCR 180 42(23.3) 酒井ら  (1997)
  Ab血清 分離 5 4(80.0) 酒井ら(1997)
  Ab脾臓 分離 5 5(100) 酒井ら (1997)
  Ab腸内容 分離 5 4(80.0) 酒井ら (1997)