人からC. burnetii の分離と遺伝子検出

 小田らは1988年の医学生の症例から本菌を分離した[23].その後,長岡らは1993年に静岡県内でインフルエンザ様症状を呈した7集団の学童55名のペア血清中,18検体に抗体価の上昇を認め,このうち13例の急性期血清から本菌を分離し[18],さらに,抗体陽性の不明熱患者24名中9名,異型肺炎患者16名中3名および上部気道炎患者13名中8名の急性期血清から本菌を分離している.著者らも抗体陽性の異型肺炎患者21名中19名から本菌を分離している[26].一方,PCRによる遺伝子は,成人の呼吸器疾患患者40名中12名,小児の抗体陽性呼吸器疾患患者33名中13名,小児の異型肺炎患者58名中21名,某大学病院に来院した抗体陽性の患者155名中135名から検出され,病原学的にもわが国にQ熱が広く浸淫していることが明らかになってきた(表4)[18, 38, 40].
表4 人からCoxiella burnetiiの分離と遺伝子検出
疾  病 材 料 検査法 検査数 検出数(%) 報 告 者
Q熱 (不明熱,成人) 血液 分離 1 1(100) 小田ら(1991)
インフルエンザ様疾患 Ab血清 分離 18 13(72.2) 長岡ら(1993)
(小学生)          
不明熱(小児〜成人) Ab血清 分離 24 9(37.5) 長岡ら(1995)
上部気道炎(成人) Abスワブ 分離 13 8(61.5) 長岡ら(1995)
呼吸器疾患(成人) 血清 PCR 40 12(30.0) To Ho ら(1995)
呼吸器疾患(小児) Ab血清 PCR 33 13(39.4) 尾内ら(1996)
異型肺炎(成人) 血清 分離 16 3(18.8) 長岡ら(1995)
異型肺炎(小児) 血清 PCR 58 21(36.2) To Ho ら(1994)
異型肺炎(小児) Ab血清 分離 21 19(90.5) To Ho ら(1995)
大学病院患者(成人) Ab血清 PCR 155 135(87.1) Zhangら(1996)
分離:A/Jマウス,Nested PCR:Com1 遺伝子のプライマー,Ab:抗体陽性検体

  一方,著者らは大学病院17診療科に来院した3,000名の血清について調査した結果,抗体陽性率は放射線科(11.8%),精神神経科(9.7%),皮膚科(9.2%)の順に高く,また,遺伝子は抗体陽性患者の82.4%および陰性患者の11%から検出された.さらに一部の血清から本菌も分離された.カルテから現在までに明らかになった診断名別陽性患者は,腫瘍31名,肝臓疾患21名,心臓疾患8名,HTLV感染症5名,呼吸器疾患4名,腎臓疾患4名,自己免疫疾患4名,リウマチ3名,甲状腺機能異常3名,神経疾患2名,その他18名であった.このように,腫瘍,肝臓,心臓疾患などに比較的陽性患者が多く認められたこと,また慢性例由来株が保有する特異的なQpRSプラスミドが検出されたことから,わが国にも慢性Q熱患者が相当数存在すると推察された.基礎疾患や自己免疫疾患などの患者に急性と慢性Q熱が多いことも最近報告されており,今回の成績もこれを支持している.小田らは心内膜炎の剖検および切除例56例のパラフィン包埋標本から遺伝子陽性患者4例を見いだし,慢性Q熱患者の存在を示唆している[36].
  現在わが国ではQ熱に関して法的にも公的機関が把握し得る体制にないので正確な統計値はない.厚生省の統計によると呼吸器疾患患者は年間に120万人から240万人発生する.これに前記の遺伝子検出陽性率を代入するだけでも,年間のQ熱患者は相当数存在すると推定され,原因不明のまま見落とされていると考えられる.