B. 家畜および活動域の制限されている動物に対する対策
1. 暴露前免疫と管理
  動物用狂犬病ワクチンはすべて,獣医師によって,あるいは獣医師による直接的な監督のもとで使用するものとする.こうすることによってのみ,信頼のおける人が責任を持って,その動物が適切なワクチン接種を受けたことを公的に保証することができる.初回のワクチン接種の1カ月後に狂犬病抗体価はピークに達し,動物は免疫されたと判断される.ある動物がワクチン接種を受けてから少なくとも30日以上経過し,かつすべての接種がこの概論に従って行われた場合には免疫状態にあると考えられる.初回のワクチン接種時の動物の年齢とは関係なく,第2回目の接種は1年後に行わなければならない(効果的なワクチンと接種方法についてはパートIとIIを参照).
(1) 犬,猫およびフェレット
  すべての犬,猫およびフェレットには3カ月齢で狂犬病ワクチンを接種し,本概要のパートタに従って再接種を行わなければならない.前回のワクチン接種から定められた追加接種の期限を超過した場合には単回量のワクチンを再接種した後,接種したワクチンに従って毎年あるいは3年ごとの間隔で接種することとする.
(2) 家  畜
  すべての家畜を対象にして狂犬病ワクチンを接種することは経済的に実行が不可能であるばかりでなく,公衆衛生の視点からも意味のある方法とはいえない.しかしながら,特に貴重な家畜や人との接触が密な家畜に対してはワクチン接種を考慮するべきであろう.
(3) その他の動物
  1)野生動物
  野生動物用の非経口狂犬病ワクチンは認可されていない.野生動物(特にアライグマ,スカンク,コヨーテ,キツネおよびコウモリ)には狂犬病発生の危険性があるために,アメリカ獣医師会(AVMA; American Veterinary Medical Association),NASPHVおよび州および準州疫学者会議(CSTE; Council of State and Territorial Epidemiologists)では野生動物の移入,分布拡大,移動および野生動物やその交雑動物をペットとして飼育することを禁止する州法を制定するよう強く勧告している.
  2)展示動物と動物園動物
  捕獲されている動物でも狂犬病感染源との接触が完全には断たれていない場合には感染する可能性がある.さらに,野生動物は最初に捕獲された時点では狂犬病の潜伏期にある可能性がある.このため,狂犬病に対して感受性を持っている野生動物を捕獲した場合には,展示を行ったり,ほかの方法でそれ以外の動物と接触させたり一般公開を行う前に,最低180日間の検疫期間を設けなければならない.そのような施設で動物と接触する仕事に従事する従業員は暴露前の狂犬病ワクチン接種を受けておく必要がある.これら従業員の暴露前および暴露後の狂犬病免疫を行うことで,捕獲した動物を安楽死させる必要性が低下する.
2. 放浪動物
  放浪している犬,猫およびフェレットは地域社会から駆除しなければならない.地域の保健局および動物管理官は放浪動物の駆除を徹底させるために,動物は囲いの中か,ひもでつないで飼うよう飼い主に守らせることができる.捕獲した放浪動物は飼い主に動物を探すための十分の時間を与えるためと,その動物が人に咬みついたかどうかを判断するために少なくとも3日間は係留しておくべきである.
3. 検  疫
(1) 国際検疫
  犬と猫の合衆国内への輸入はCDC(Center of Diseases Control)によって管理されている.しかし,国内への狂犬病動物の持ち込みを阻止するためには,現行のPHS規則(42CFR第71.51番・略)による動物の輸入規制だけでは不十分である.狂犬病流行国から輸入される犬と猫はすべてこの概論で勧告されているように狂犬病に対するワクチン接種を済ませていなければならない.また,ワクチン未接種の犬または猫が輸入された場合には,それがどのような動物であっても,輸入した者は輸入目的地の州の狂犬病担当の公衆衛生係官に対して,輸入後72時間以内に報告しなければならない.そのような動物の合衆国内への持ち込みが条件付きで承認されるかどうかは狂犬病に関する州法および地方の法律によっている.これらの必要事項が履行されない場合にはただちにCDCの検疫室(Division of Quarantine)へ報告しなければならない.
(2) 州  間
  犬,猫およびフェレットを州間で移動させる際は前もって,本概論の勧告(B.1.暴露前免疫と管理を参照)に従ってワクチン接種を済ませておかなければならない.移動中の動物には「狂犬病ワクチン接種証明」(NASPHV様式#51・略)を添付させることとする.
4. 補助的な方法
  狂犬病対策の効果を高める方法や手段として次の事項があげられる.
(1) 鑑札制度
  狂犬病対策の目的で,すべての犬,猫およびフェレットを登録し,鑑札制度をとることができる.そのような鑑札に必要な費用は定期的に徴収し,集められた収入は狂犬病対策や動物対策計画の立案や維持のために用いる.狂犬病ワクチン接種証明が鑑札交付の必須の前提条件となる.
(2) 地域の巡回訪問
  動物監視員はワクチン接種と鑑札の必要性を徹底するために各戸ごとに巡回する.(3) 召  喚
  召喚とはワクチン接種を受けなかったり鑑札を受けない等の違反を犯した飼い主に対して,法律に則って行う呼び出しである.監督官に召喚を行う権限を与えることは動物対策の計画の中でも不可欠な要素である.(4) 動物対策
  すべての地域社会はそれぞれの活動計画の中で,放浪動物対策,動物の稽留規則の制定およびこれらを行うための要員の教育訓練を取り入れるべきである.