5. 暴露後管理
  野生肉食動物やコウモリを検査することは不可能であるため,これらの動物に咬まれたり引っかかれた場合には狂犬病に暴露されたものと見なして対処しなければならない.
(1) 犬,猫およびフェレット
  ワクチン未接種の犬,猫およびフェレットが狂犬病発症動物に暴露された場合にはただちに安楽死処分を行わなければならない.飼い主がこの処置に同意しない場合には,その動物は6カ月間厳重に隔離した後,ワクチン接種を行ない,さらに1カ月経過した後に解放する.ワクチン接種の有効期間が過ぎた動物が暴露された場合にはそれぞれに応じた処置をとる.ワクチン接種の有効期間中の犬,猫およびフェレットが暴露された場合にはただちに再接種を行い,飼い主の管理下で45日間,経過を観察する.
(2) 家  畜
  家畜はすべての動物種が狂犬病に対する感受性を持っている.中でも牛と馬の感染例が多い.狂犬病感染動物に暴露された家畜がUSDAが認可したワクチンを接種済みで,その有効期間内であった場合にはただちに再接種を行った後45日間経過を観察する.暴露された家畜がワクチン未接種の場合にはただちに殺処分を行わなければならない.この処置に飼い主の同意が得られない場合には動物は6カ月間注意深く観察する.以下に,ワクチン未接種の家畜が狂犬病動物に暴露された場合の飼い主に対する注意事項をあげる.
  1)暴露後7日以内にと殺した家畜に関しては,その組織を食しても感染の危険性はないが,暴露部分は広範に取り除いて廃棄する.連邦食肉検査官はその動物が8カ月以内に狂犬病動物に暴露されたことが明らかな場合は,いかなる場合もと殺を許可することはない.
  2)狂犬病発症動物の組織および乳は人または動物の食用に供してはならない.しかし,狂犬病ウイルスは乳の殺菌温度で不活化されるために,殺菌乳を飲んだり加熱調理した肉を食べても狂犬病に暴露されたことにはならない.
  3)1カ所の飼育場当たり2頭以上の狂犬病感染動物が存在したり,草食動物間で狂犬病が伝播することはまれである.このため1頭が暴露もしくは発症しても他の動物に対して規制を加える必要はない.
(3) その他の動物
  上記以外の動物が狂犬病発症動物に咬まれた場合にはただちに安楽死処分を行わなければならない.USDAの認可が下りている研究機関の動物や,信頼のおける動物園の動物に関してはそれぞれの場合に応じて判断することとする.
6. 人を咬んだ動物の管理
  健康な犬,猫またはフェレットが人を咬んだ場合には檻の中に隔離して10日間観察する.その間はワクチン接種をするべきではない.係留期間にその動物に何らかの症状が表れた場合には獣医師が診察する.その動物に関してはいかなる症状でもその地方の保健局へ届け出なければならない.もし狂犬病の疑いのある症状が認められた場合には,その動物は安楽死させ,脳の検査のために頭部を切断して冷蔵して(凍結させないこと),地域または州の保健局から認定を受けた検査機関へ送付する.放浪または捨てられた犬,猫およびフェレットが人を咬んだ場合にはただちに安楽死させ,上に述べたと同じように検査のために頭部を提出する.犬,猫またはフェレット以外の動物によって人が狂犬病に暴露されたと考えられた場合にはただちに地方保健局へ報告しなければならない.その動物種でのウイルス遊離期間が不明の場合には,その動物がすでにワクチン接種を受けていても安楽死処分をして検査を行う必要がある.犬,猫およびフェレット以外の動物が人を咬んだ場合は,動物種,咬んだときの状況その地域での狂犬病の疫学的状況および咬んだ動物の病歴,最近の健康状態および狂犬病への暴露の可能性等によってその取り扱いは異なる.咬まれた人の暴露後管理はACIPの勧告に沿って行わなければならない.
C. 野生動物における対策方法
  一般人に対しては野生動物に触れないよう厳重に注意しなければならない.野生哺乳類または交雑種が咬傷またはそれ以外の経路で人,ペットまたは家畜を暴露した場合には安楽死処分を行い狂犬病検査を行わなければならない.人が野生哺乳動物に咬まれた場合にはその動物種を問わずただちに,狂犬病に対する処置の必要性を判断できる医師にその状況を報告すること(現行のACIPによる狂犬病予防勧告を参照のこと).
1. 地上哺乳動物
  特定の状況下では,放し飼い状態の野生動物に対してすでに認可されている経口ワクチンを用いた集団免疫措置を検討する.この場合動物狂犬病対策に責任を持っている州当局の許可を得て行うこととする.州レベルでの野生動物の狂犬病対策として,自治体の費用で連続的,持続的に野生動物の捕獲を行ったり毒殺を行う方法は費用効率が良くない.しかしながら,接触の機会の多い地域(ピクニック場,キャンプ場,都市周辺部など)に限定した対策として,危険性の高い特定の動物種の駆除を行うことが考えられる.ワクチン接種や生息数の低下措置を講じようとする場合には,それがいかなる方法であっても州の野生動物管理部門と保健局に対して問い合わせを行わなければならない.
2. コウモリ
  在来種のコウモリが狂犬病に感染している例はハワイ州を除いてすべての州で報告されており,これまで全米で28名がコウモリによって狂犬病に罹患している.しかしながら,生息数の減少計画を立ててコウモリの狂犬病対策を行うことは可能性が低いばかりでなく,望ましい方法ともいえない.コウモリが家屋や周辺の建造物に侵入しないようにすることで人との直接的な接触を断つことが望ましい.これらの建物はコウモリの出入口を塞いでコウモリ排除構造とする.コウモリとの接触の機会の多い人はACIPの勧告に従って狂犬病ワクチンを接種することとする.

 本稿の翻訳は,国立感染症研究所人畜共通感染室の神山恒夫先生,井上 智先生,小浦美奈子先生にご協力いただきました.
  本稿に関する連絡先:国立感染症研究所人畜共通感染症室 神山
FAX 03-5285-1179 e-mail: kamiyama@nih.go.jp