参考:米国における1997年の狂犬病調査

 野生動物の狂犬病の報告数は,昨年まで3年続けて減少していたが,1997年は大幅な増加を見せた.米国では依然としてアライグマの報告が多く,1997年も,動物全体の50%を超える割合を占めている.また,新たにオハイオ州が,アライグマ型の狂犬病ウイルスの流行地域に加わった.このため,同州内の狂犬病に感染したアライグマが見つかった地域では,現在,積極的な調査プログラムが進行中であり,これにより他の症例が早期に発見されれば,何らかの対策が講じられることとなる.すでにオハイオ州の3つの郡では,同州を含む中西部諸州にこれ以上アライグマの狂犬病が広まらないように,1997年,700平方マイルを超える地域に250,000匹分以上に相当するV-RGウイルスワクチンが散布されている.アライグマの狂犬病は,1997年には,19の州とコロンビア特別 区で風土病としての流行が確認されている.これらの地域では,アライグマの狂犬病の99.8%(4,292例/4,300例)が報告されている.また,1997年に米国で報告された狂犬病の77.2%(6,573例/8,513例)を,これらの地域からの報告が占めている.アライグマのあいだで狂犬病が風土病として広まっている州では,一般 に狂犬病の報告数にかなりの増加がみられるが,それは,前回の流行によりアライグマの数が激減してのち,ふたたび数が増え,狂犬病の伝染に十分な密度に達したことによるものである.
 狂犬病の拡大を阻止したり,その勢いを鈍らせたりするために,オハイオ州以外の多くの州でも,野生のアライグマにワクチンを投与する方策が実施されている.現在,アライグマの餌にV-RGウイルスワクチンを混ぜるという個体群ベースのプログラムの効果 が,フロリダ州(パイネラス郡),マサチューセッツ州東部(ケープ・コッド),ニュージャージー州(ケープ・メイ),ニューヨーク州東部と北部,ヴァーモント州で評価中である.1998年には,さらに多くの州でV-RGウイルスワクチンが使用され,アライグマの狂犬病の抑制が試みられているものと思われる.ワクチンの安全性や効果 ,環境への影響などを把握するための初期評価の結果は良好であった.V-RGウイルスワクチンは,1995年4月に条件付きで認可されたのち,1997年4月に全面 的に認可された.現在各州は,州公認あるいは政府公認の狂犬病抑制プログラムに則っている場合にのみ,ワクチンの散布を認めている.
 スカンクの狂犬病の増加は,主としてアライグマの狂犬病が流行している州でみられ,大半の報告例はアライグマの狂犬病が飛び火したものと考えられる.ただし,デラウェア州,フロリダ州,ジョージア州,およびメリーランド州だけは,アライグマの狂犬病が流行している州であるにもかかわらず,スカンクの狂犬病が減少している(4州合わせて67例).また,アーカンソー州,カンザス州,テネシー州,テキサス州,およびその他いくつかの中央平野部および中西部の州で報告されている増加は,当該地域のスカンク型の狂犬病ウイルスによるものである.
 コウモリの狂犬病報告数の増加には,複数の要因が考えられる.各種コウモリにおける狂犬病の発生頻度は,陸生の宿主と同様,時間的な変動を示す.これは互いに関連し合ったさまざまな要因が,経時的に変化しながら組み合わさっているためである.人間の狂犬病の多くがコウモリ型の狂犬病ウイルスの感染によるものだという事実は,最近になって特に知られるようになり,公衆衛生当局はコウモリとの接触で狂犬病になるおそれがあるとの忠告を一般 に公示しだしている.だが,人間の狂犬病の発生に関する報告は,たとえ後日まとめたデータを発表した場合であっても,大衆を不安に陥れ,公衆衛生当局への問い合わせの増加を呼ぶことにもなる.ところが,そうした報告により,狂犬病の検査が実施されるコウモリ(また,頻度は少ないが他の動物についても)の数が増すことも事実である.したがって,近年みられるコウモリの狂犬病の増加は,このように一般 に認知されることによって,コウモリの狂犬病検査の機会が増えたことも大きな一因といえる.

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