参考:コウモリと狂犬病

Q:コウモリに暴露された飼い主に対して獣医師はどう説明すべきでしょうか?
A:獣医師は狂犬病のコウモリと接触した人には,狂犬病の暴露後免疫(PEP: Postexposure prophylaxis)を受けるべきかどうか,必ず医師の判断を求めるよう飼い主に説明するべきです.獣医師は暴露した可能性のある人の氏名と電話番号を最寄りの保健局に連絡し,それを受けて保健局の係官は暴露された人が確実に治療を受けているかどうか追跡することができます.医師や公衆衛生関係者は動物に咬まれた人に対して狂犬病PEPを受けるように勧告しなければなりません.

Q:アメリカ合衆国にはどういう種類のコウモリがいますか?
A:合衆国の大陸部に定住しているコウモリとして少なくとも42種類が分かっていて,すべてが食虫性です[6].食虫性のコウモリは群を作らずに生活するものと集団生活をするもの,および移動するものと定住性のものに分けることができます.集団生活をするコウモリはビルを寝ぐらにすることもあります.一方群を作らないコウモリは樹木を住みかにする傾向があります.検査に持ち込まれたことのあるコウモリとして,オオクビワコウモリ(Eptesicus fuscus),アカコウモリ(Lasiures borealis),シモフリアカコウモリ(Lasiures cinerus),シルバーコウモリ(Lasionycteris noctivagans),トビイロホオヒゲコウモリ(Myotis lucifugus),キーンホオヒゲコウモリ(Myotis keenii),およびアメリカトウブアブラコウモリ(Pipistrellus sulflavus)があります[1-3].これまで検査したうちでは,北アメリカではほとんどすべての種のコウモリに狂犬病が見つかっています.狂犬病の検査が行われるコウモリの数は5〜9月にかけてが最も多く,これはこの時期にコウモリの活動が活発になって人との接触の機会が増えるためとみられます.定住性のコウモリは合衆国北部では9月〜翌年の4月まで冬眠します.移動性のコウモリは5〜6月に北へ向けて移動し,9〜10月には南下します.これまでコウモリの狂犬病はハワイを除いたすべての州で見つかっています.アメリカ合衆国では吸血コウモリと果 実食性コウモリは動物園で飼育されている以外にはいません.

Q:アメリカ合衆国ではコウモリによる人の狂犬病は珍しくないのでしょうか?
A:アメリカ合衆国では人の狂犬病はまれな病気です.しかし1980年から1997年の間に発生した36名の狂犬病患者のうち21名はコウモリ由来の狂犬病ウイルス株による感染でした[7].この21名のコウモリ狂犬病のうち15例はシルバーコウモリ/アメリカトウブアブラコウモリ種のコウモリが持っているウイルスによるものでした[7].1997年には合衆国では4名の狂犬病患者が発生しましたが,そのすべてがコウモリ変異株ウイルスによるもので,そのうち3例はシルバーコウモリ/アメリカトウブアブラコウモリ種の変異株で,残り1例はオオクビワコウモリのウイルスによるものでした.合衆国では人から分離された狂犬病ウイルスはすべて変異株の型別 試験が行われています.一般的には,コウモリの間で伝播している狂犬病ウイルスと,地上動物の間で伝播している狂犬病ウイルスはそれぞれ別 のものであるということができます.したがって,人からコウモリ変異株の狂犬病ウイルスが検出された場合には,その人は狂犬病感染コウモリと接触があったと見なすことができます.

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