【参考】

コウモリと狂犬病

コンスタンス・C・オースティン

イリノイ州公衆衛生局感染症課(ジェファーソン通り525W,スプリングフィールド, イリノイ州62761,アメリカ合衆国)

 米国におけるコウモリから人への狂犬病の感染事例が話題になっているが,米国獣医師会雑誌(1998年11月1日号)に「コウモリと狂犬病」と題する記事が掲載された.当該記事は公衆衛生当局が一般 に対してコウモリの狂犬病に関する啓蒙を行うQ & A形式のものであり,米国における実情がよく伝えられている.

 飼っている猫が家の中でコウモリにじゃれついているのを見つけた飼い主が最寄りの動物管理事務所へ電話をしてそのコウモリを捕まえて狂犬病検査をするように依頼しました.その結果 ,コウモリが狂犬病陽性であることが分かったため,飼い主は猫をかかりつけの獣医師のところへ連れて行き次のように質問をしました.

Q:うちの猫はあのコウモリから狂犬病を移されたでしょうか?
A:はい,状況から判断するとこの猫は狂犬病に暴露されたと考えることができます.アメリカ合衆国では毎年600〜800匹のコウモリが狂犬病の検査で陽性であると診断されています.この数は国内のいろいろな地域で検査されるコウモリのうち,およそ5〜13%に相当します(図1)[1-3].しかしコウモリを無作為に捕獲して調べた場合は,狂犬病の陽性率はおよそ1%にすぎません.ペットや人を検査してもコウモリに咬まれた可能性を否定することは必ずしも容易ではありません[4].コウモリの歯は小さいために咬まれても確認できないことがあります.もしある動物がコウモリと物理的に接触しているのを見かけた場合は,そのコウモリが検査の結果 狂犬病陰性であることが分かるまではその動物はコウモリの狂犬病に暴露されていると考えるべきでしょう.

図1 アメリカ合衆国におけるコウモリ狂犬病
左縦軸 狂犬病コウモリの数(■)
右縦軸 狂犬病陽性率(%)(―)

Q:うちの猫はどうなるのでしょうか?
A:多くの州では,毎年改定されている「動物の狂犬病対策概論」(本誌1999年1号に掲載)というガイドライン[5]に沿って対策が立てられています.1998年版の「動物の狂犬病対策概論」ではワクチン接種をしていない犬,猫およびフェレットが狂犬病の動物に暴露した場合には安楽死処分を行うよう勧告されています.ワクチン接種をしていない動物に対して安楽死処分を行わない場合には6カ月間檻の中に係留し,係留を解く1カ月前にワクチン接種をするようにされています[5].ワクチン接種を受けていなかった犬,猫またはフェレットが狂犬病の動物に咬まれても安楽死処分を行わなかった場合には,飼い主やその家族,およびそこの家を訪れた人全員に対して狂犬病に感染する危険性があることを説明し,その動物に咬まれたり引っかかれたりしないようにしなければなりません.飼い主と獣医師はその動物が狂犬病を疑わせる症状(刺激を与えなくても攻撃的になったり,運動不全,行動の変化,麻痺,強い沈鬱状態)をあらわすかどうか,注意深く観察しなければなりません.もし,犬,猫,またはフェレットが最近ワクチン接種を受けていていた場合にはただちに再接種を受けさせ,45日間係留します.規制は州や地域によって異なっています.獣医師は州の動物管理当局に問い合わせて,狂犬病発症動物に暴露したペットに関する法律や咬まれたことを報告するべきかどうか確認するべきです.