二つ目のセンターの機能は,調査研究に関わる機能.これは従来やってきた救護原因の究明や環境モニタリングの機能である.最近では,鳥インフルエンザ問題でかなり活躍してきたと思う.ハクチョウの死体が見つかったと県民から連絡が入ると,管轄の地方振興局の職員が出動し,家畜保健衛生所に運んで簡易検査を行う.そこで,陰性と判定されても,死因が判らないうちは何となく不安である.そんな時は,さらに保護センターに転送され検案が行われる.中にはウジが湧いたり,乾燥化したものもあるが,これまでのデータの積み重ねからほぼ100%原因を特定することが可能である.翌朝には,メールで検案書を関係部局に送るという塩梅である.こうして,大量死とか,不明死とか,野生動物に関わって世上が騒がしくなると保護センターにお呼びがかかる.とにかく,スピードと科学性が要求される機能である.
最近の迷解決は,今年の2月,ある農業用のため池で発生した水鳥の大量死である.まず市役所から「カモが多数死んでいるようだ」という一報が入った.警察署が動き,さらに地方振興局の鳥獣担当と水環境担当が現地の確認を行った.まず,簡易水質検査の結果は異状なし.さらに魚類,両生類に異状なし.鳥獣担当者が16羽のカモの死体を回収し,家畜保健衛生所に搬送した.直ちに,鳥インフルエンザの検査が行われ,全て陰性.その時点で保護センターに検死の要請が入った.解剖の結果,最大の特徴は上部消化管に大量のコメが滞留している点.その他腸管に軽い炎症とうっ血がみられたが,肉眼ではそれ以外の異状は確認できなかった(図3).上部消化管の弛緩と麻痺であれば,やはり鉛中毒症の可能性が疑われる.そこで,X線検査の結果,3例で鉛散弾らしきものが確認された.一方,16例の種を鑑別すると,マガモの雄1羽,オナガガモの雄4羽,そしてオナガガモの雌11羽.オナガガモと言えば逆立ち採餌をすることが知られており,浅い湖底に沈んでいる鉛玉を小石と間違って摂取する可能性が高い.ほぼ鉛中毒症で決まりかと思われたが,現地確認した者の話では銃猟ができる場所ではなく,ハクチョウが約50羽,それからカモ類は約150羽でマガモとオナガガモが半々,それにキンクロハジロが観察できたということである.念のため,家畜保健衛生所で有機リン系農薬の検査,ニューカッスル病の検査を行ったが,いずれも陰性.県の環境センターで鉛濃度を測定,さらに検体の一部を岐阜大学病理学教室に送付.ここで意外な結果が出た.鉛濃度が最大値で2ppmと正常値の範囲であることが判明したのである.しかも,上部消化管に貯留していたのはコメではなく,炊いたご飯だったのである.例えばご飯に何かの毒物が混入していたとしたら,魚類も影響を受けて当然であろうし,鳥種の割合でマガモ1羽だけで,残りの15羽が全てオナガガモというのは納得できるものではない.なぜ,オナガガモなのか? こうなったら,現場検証をするほかはない.ため池は静かな住宅地に囲まれた所にあった(図4).現地報告の通り,ハクチョウとマガモ,オナガガモ,キンクロハジロが泳いでいる.とくにこれと言った問題は見られない.迷宮入りか….餌付け場所には古いバスが置かれ,バスの中には袋に入ったアオゴメやムギがある.試しに,エサを撒いてみた.キンクロハジロ以外は皆で水面に投げ入れられたエサを食べている.ところが,地面にエサを撒いてみて驚いた.水から上がってきてエサを食べているのはオナガガモの雌がほとんど.しかも,その割合がマガモの雄1羽,オナガガモの雄4羽,そしてオナガガモの雌11羽ではないか.オナカガモの雌は全く人を恐れる様子はなく,その後から雄がついてくる.マガモは警戒心が強いのか,水から上がるものはほんの僅かである.どうやら,鳥種の割合の謎はここにあった.しかし,依然としてご飯の謎は解けない.アシドーシスなのか.カビ中毒なのか.しかし,今のところ断定できる根拠はない.無念,保護センターに科学捜査研究部門が欲しい.
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図3 オナガガモの解剖写真.食道から腺胃に食渣が貯留している. |
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救護原因の究明と環境モニタリングの機能は,野生動物にとっても,また人間にとっても,安全・安心な社会を保つために必要不可欠な活動である. |
(以降,次回へつづく) |