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一方,「市民協働」というキーワードに対しては,日本とは別の角度から野生動物救護を捉えてみる必要性があると考えられた.そこで,福島県鳥獣保護センター(1982年設立)とほぼ同じ時期に設立された米国ワシントン州にあるPAWSワイルドライフセンター(1981年設立)からゲストスピーカーを呼んで,パネルディスカッションを開催するという企画が提案された.PAWSというのは「Progressive Animal Welfare Society」の頭文字で,ペット問題と野生動物救護の2つの部門で活動している団体である.その野生動物救護部門のディレクターであるキップ・パーカー氏と専任獣医師であるジョン・ハッカビー氏を招聘することになった.
大会開催の3カ月前の平成14年6月,最終調整のため米国に渡ることになった.米国の救護センターの現状を,この目で確かめたいという気持ちもあった.PAWSワイルドライフセンターの年間の救護数は4,000〜5,000頭羽,福島県鳥獣保護センターの約10倍である.野生動物部門はさらに4つのセクションに分かれている.獣医師セクションではハッカビー氏を含めて2名の獣医師(図2).また,リハビリテーター・セクションではマネージャーのジェニファ・コンベイ氏の外に6名の常勤スタッフと2名の季節雇用スタッフ,ボランティア・プログラム・セクションでは1名のマネージャー,放鳥獣フィールドの管理をしているワイルドライフ・ナチュラリスト・セクションでは1名のスタッフが勤務しており,野生動物部門全体で11名の常勤スタッフと2名の季節雇用スタッフで運営されている.勿論,スタッフに加えて様々なボランティアやインターンが救護活動を支えている.当時の年間予算は約9,000万円であった.ただし,PAWSもそうであるように,米国の野生動物救護センターの経営はほとんどがNPO法人など民営なのである.「なんで官営でないのか?」という質問に対して,理事のパーカー氏から「もともと,そうだったから」という答えにならない答えをもらった.何でそんな質問をするのだろうという顔をされて,むしろこちらの方が当惑してしまった.PAWSの予算のほとんどを寄付に頼っていることは確かである.国民的な支持を受けているからこそ,寄付を受け取ることができるのだとしても,一体どんな意義を救護の目標としているのか? パーカー氏によれば,救護の一番目の意義は,Humane(人間らしさ,人道主義)だという.その後に,Ecology(生物多様性の保全)とか,環境教育,或いは絶滅危惧種の保護という単語が並べられたが,実際に行ってみて感じたのはHumaneという意義だけで,活動が十分に理解されているという印象だった.日本では寄付の習慣が少ないということは,大きな状況の違いだとしても,救護活動の国民的な盛り上がりが今一つであるし,20〜30年前の鳥獣保護事業計画で保護センターを作った自治体は幾つかあったが,その後保護センターを設置する自治体がないというのは,もっと根本的な原因があるように思えた.
こうして,平成14年9月5日から4日間,さまざまな人たちに支えられて,340名という参加者を迎え,また副知事からの歓迎の挨拶もあって,無事大会を終えることができた(図3).そして,この大会を契機にして,福島県鳥獣保護センターの活動が大きな変曲点をむかえるようになる.その活動基盤となったのがNPO法人WCS(ふくしまワイルドライフ市民&科学者フォーラム)の設立と,さまざまな活動の協働である.次回は,NPO法人WCSの活動を紹介したい. |
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本原稿を執筆中に,鈴木兵一前福島県獣会長の訃報にふれました.福島県野生動物救急救命医制度の創設や第8回野生動物医学会大会の開催など,野生動物救護にも多大な貢献を下さった鈴木前会長の業績に敬意を表するとともに,ご冥福をお祈り申し上げます. | ||||||
(以降,次回へつづく) |
† 連絡責任者: | 溝口俊夫(福島県鳥獣保護センター) 〒969-1302 安達郡大玉村字長久保63 TEL・FAX 0243-48-4223 E-mail : wcf@guitar.ocn.ne.jp. |