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 この2カ月間,沢山の思いが交錯し,色々なことを考えた.今回,自分が行ったフィールド・ワークのように,学生を海外へ送って現地のスタッフとともに研修なり研究なりをさせるというのは非常に良い制度だと思う.コーネルからやって来た2人しかり,ケンブリッジの4人組しかり.彼女たちがウガンダで経験したり感じたりしたことは,帰国してから彼女たちの中で大きく成長していくことだろう.単に旅行をして得た経験とは質も重みも違うはずだ.学問的には取るに足りないことかもしれないが,人間としては大きな糧になったはずである.
 なぜ日本の大学ではこんな簡単な交流ができないのだろうか.教員が引率するような研修旅行ではなく,学生だけで送り出す海外研修をさせるべきだ.途上国にはこのUTROの様な研究所が沢山あり,日本から学生が研修に行きたいと申し入れれば喜んで受け入れてくれるだろう.そしてそういった場所で培った経験は少なからずその人間を成長させ,将来,開発援助に携わろうと意気込む若者を育てていくに違いない.長いことイギリスに住んで,サービスの悪さに文句を言い,食事のまずさを嘆き,天気の悪さに難癖をつけていたが,こればかりは感謝しなければいけないと心から思った.
 イギリスに戻ってから論文を仕上げ,何とか博士号を取得して日本へ帰国.JICA専門家として働くチャンスが巡ってきた.それから約10年間,タイ,ウルグアイ,ベトナム,マレイシアへ赴任し,主に診断技術の改善を主眼とするプロジェクトに従事した.マレイシアでの活動の後,仕事に対しマンネリ気味になっていた自分をリフレッシュしようと再度イギリスへ渡り,環境生物学の修士課程で勉強.帰国後は再びJICA専門家として活躍する機会をいただき,タイ及び周辺国における広域プロジェクトへ赴任した.そして現在は14年ぶりに因縁のウガンダへ戻り,家畜疾病対策計画という小さなプロジェクトを任されている.
 このプロジェクトは「家畜疾病診断能力の強化を通じて,ウガンダ国の家畜疾病対策の体制を強化する」という目標の下,中央における診断・検査機関である家畜疾病診断・疫学ラボラトリーの機能改善と,県獣医事務所との連携強化を2本柱とした活動を行っている.こう書くと聞こえはいいが,実際,プロジェクトが開始された9カ月前には,ラボは惨憺たる状態であった.スタッフも技術者ばかりで獣医師がおらず,やはり知識の点で不安があった.
 診断技術の移転を始める以前に,そのような環境を整備する必要があると感じ,この半年ばかりはそういったマネジメント業務に追われてきた.最近になってようやく診断棟の改修が終わり,機材が入り始め,何とか技術移転を始められる出発点にたどり着いたところである.
 県の獣医事務所は若干様相が違っていた.政府が進めてきた地方分権化政策により,それなりの数の獣医師及び家畜衛生スタッフが配置されている.事務所によっては小さなラボを併設し,細々ながら簡単な寄生虫検査を実施しているところもあった.少し手を加えて少額機材を供与すれば,県事務所のラボはすぐに動き出すだろうと感じ,その役を協力隊の隊員に託してみようと考えた.というのは協力隊も進化の過程をたどっており,何年か前から短期派遣という制度が導入されていたからだ.これはかなり柔軟なシステムで,任期の設定が自由,かつ募集から赴任までの期間が短いときている.幸いにもJICAウガンダ事務所がこの制度の活用に積極的であったことから,すぐに4名の短期派遣獣医隊員の要請を上げた.ターゲットは院生だったのであるが,ありがたいことにプロジェクトの国内支援機関である日本大学生物資源科学部が3人も送り出してくれた.またうれしい誤算であったのは,何の前知識もなくネット上の公募を見て応募してくれた方がひとりいたことで,これでちょうど募集をしていた4人全員が揃い,めでたしめでたしということになった.
 なかなか個性的なこの4人の顔ぶれは,しっかりした姉御肌のNさん,一見まじめ青年風だけどやることは大胆なHくん,野生児タイプなくせに意外とマメなMくん(以上日大),そしてベテラン獣医師でありながら現在は宮崎大の博士課程に在籍する妻子持ちのKさんである.プロジェクトとしてこの4人に課した宿題は3つ.各事務所の簡易診断ラボで血液検査と糞便検査ができるようにすること,ブルセラ病と結核病の調査をすること,そして各県の家畜衛生情報を集めることだ.必要な機材や試薬類はもちろん供与し,各人は別々の県獣医事務所に配属され,現地スタッフと共に7週間の活動を行った.サンプリングの方法やラボのアレンジなどは各人の裁量に任せていたため,それぞれが工夫を凝らし,各県で違った感じに仕上がっていった.
 配属されてしばらくは何かとゴタゴタしていたようで頻繁に電話がかかり,手元の携帯が鳴る度にドキッとしていた.が,2週間もすると落ち着いてきたらしく,携帯が鳴る回数も減り寂しくさえ感じるようになった.このウガンダでの2カ月間が,彼らにとって短かったのか長かったのか,楽しかったのかつらかったのか,刺激になったのか退屈したのか,ウガンダを思う気持ちは膨らんだのか否か…自分にはよくわからない.しかしきっとポジティブな何かを感じて日本へ帰ってくれたことと思う.そんな彼らの活躍についてはプロジェクトのホームページをご覧いただきたい(http://homepage.mac.com/yk8/ADC-UG/index.html).ちなみに隊員の短期派遣については今後も随時要請を上げていく予定である.
 協力隊員としてシリアへ赴任し,彼の国の人たちに自分の未来の種をもらった.それ以来,自分も誰かに未来の種を運んであげられるようになれたらと思い,この仕事を続けている.人の熱い気持ちに弱い君は,もしかしたらこんな仕事に向いているのかもしれない.
昨年,キボガに赴任した協力隊短期隊員が実施した採材の様子.
昨年,キボガに赴任した協力隊短期隊員が実施した採材の様子.
キボガはウガンダ西部に位置し,このあたりには長角種であるアンコーレ牛が多い.
農場も東部に比べて大規模であり,多くの農家が追い込み柵を持っている.

略 歴
1982年北海道大学獣医学部卒業.1984年同大学大学院修士課程修了.1984年から1987年にかけて青年海外協力隊獣医師隊員としてシリア・アラブ共和国ハマ市の獣医研究所寄生虫学研究室にて活動する.1989年から1993年にかけて国際協力機構(JICA)海外長期研修生としてイギリスのリバプール大学医学部附属熱帯医学校博士課程に在籍.博士号取得後,特別嘱託としてのJICA本部勤務を経て,「タイ国立家畜衛生研究所プロジェクト・フェーズ II 」(1994年から1998年),及び「ウルグアイ国立獣医研究所強化計画」(1999年から2001年)に長期専門家として技術指導を行う.また,短期専門家としては「ベトナム国立獣医研究所強化計画」(2001年から2002年)及び,「動物におけるニパウイルス」ミニ・プロジェクト(マレイシア,2002年から2003年)に携わった.その後,イギリスのセント・アンドリューズ大学環境生物学修士課程に1年間留学し,環境生物学の修士号を取得.帰国後,A&Mコンサルタント(有) に所属する傍ら,再びJICA長期専門家として2004年より2年間「タイ及び周辺国における家畜疾病防除計画」に関わる.2007年3月よりウガンダ共和国へ赴任し,「家畜疾病対策計画」に従事.


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† 連絡責任者: 柏崎佳人(A&Mコンサルタント(有) )
c/o JICA Uganda Office, P. O. Box 12162, Kampala, UGANDA
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