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 5 授業の反響
 (1)児童生徒の反応
 正木小学校においては,毎回講義が終わると質問や感想を述べる時間があった.20人や30人の手が一斉に挙がり,活発で率直な発言を聞くことができた.また,その都度感想文を書いており,主なものに目を通させてもらったが,実に的確に,素直に捉えて書かれており,確かな手ごたえを感じさせてもらった.
 羽島中学校では7回目の授業が終了した後の閉講式に,会長に向け3年生の代表者から次のようなお礼の言葉があった.
 『私たち羽島中学校3年生は,7回に渡る「いのちの授業」で,たくさんの先生方のお話をうかがい,いろいろな角度から「いのち」について考えることができました.まず,「人と動物のきずな」に目を向け,人も動物も幸せを共有することの大切さを学ぶことから始まり,動物の「いのち」も人の「いのち」と同じくらい大切だということを感じました.また,普段,私たちが当たり前のように食べている食べ物.それは,本来の寿命まで生きることなく,途中で処理されてしまう動物の「いのち」をいただいているということです.そして,食べ物に隠された病気を取り除く仕事をされている方々のおかげだということを心に重く感じました.さらに,生物界の中で,人は動物や植物よりも多くの能力を持ち,地球上で最も優位な立場であることを理解した上で,自然の「いのち」を守るために私たちにできることを考えさせられました.
 このように7回に渡り,お話をうかがうなかで,私は大切なことに気がつきました.それは,人は自然に生かされて生きているということ.そして,人が地球上で最も優位な立場であるということは,その分,人には「地球上に存在する全ての生物の共生・共存を図る」という使命や役割があるということです.人は自然の生態を守る努力ができます.しかし,逆に人の勝手な行動により自然の生態を乱すことも簡単にできてしまいます.「いのちの授業」を通して自分自身の今までの行動を見直し,これからの生活につなげていきたいと思います.
 私たち3年生は,様々な分野で活躍されている獣医師の方々の貴重なお話を聞かせていただき,「いのち」を大切にすると同時に「いのち」への感謝と畏敬の念を抱くことができたと思います.今の自分とこれからの自分を見直す機会として夏休みに「いのちの授業」を通して学んだことや考えたことを新聞や作文にしてまとめたいと思います.この度は,お忙しい中,誠にありがとうございました.』
 いわゆる教育の素人集団である我々の講義が何処まで児童生徒に通じたかが気になるところであった.
中学3年ともなると,講堂で300近い人が一堂に会するこうした雰囲気の中では中々挙手して意見を云うのができ難いのか,或いはテーマが重く,色々な思いが巡り軽々に発言できないのか,小学生のような反応が少なかったことが多少気になっていたのだが,このお礼の言葉で気がかりは全て払拭できた.これ程までに我々のこの企画の意図と,各講師の思い汲み取っていてくれたと思うと誠に感激の極みであった.
 (2)各界の反応
 講義は当初小中学生を対象にしていたが,学校側の計らいで一般に公開されることになり,報道関係者はもとより,家庭での話し合いを期待して保護者が徐々に増え,教育大学生,ドッグボランティア,市議会議員,出版社の方なども聴講される結果となった.児童生徒の反応が最も大事だが保護者・先生方学校関係者にも喜んでいただけた.マスコミも新聞,テレビ,ラジオで取り上げ,聴講した他市議会議員が早速議会で「わが市でも実施すべし」と取り上げるなど,大きな反響があった.現在の社会情勢下にあっては,教育とりわけ命にかかる青少年の健全育成の課題が,如何に社会的関心事であるかが伺われた.
 獣医師会が命に関して,シリーズ化した授業を学校教育の中で取組むのは全国的にも初めてといわれ,「命に関する教育」の場に,獣医師が日常活動の中の命を語りかけたところに,各界が評価を与えてくれたものと思う.

図5 質問する小学生
図5 質問する小学生
図6 新聞各紙が大きく報道
図6 新聞各紙が大きく報道

 6 いのちの授業の今後
 我々の企画の真の成果はここで終わるものではなく,これからの受講生の成長にある.今後学校ではフォローの授業が企画されており,この講義を母体としてさらに社会見学や,調査,発表会などへと昇華させていくことにしている.
 (1)正木小学校における展開
 次に示すように「命と真剣に向き合う」カリキュラムが組まれている.
  1. 1学期:獣医師の方々から「いのち」についての講話を聞く.(各界の獣医師の方から提言を聞き,その後学級ごとに補充・深化の授業をし,自分を見つめ直し次時へつなげていく.)
  2. 2学期:各学級ごとにプロジェクトを決め,提言ができる様に追求学習を展開する.(プロジェクト・チームを作り,見学・調べ学習などを行っていく.→・獣医師の仕事・食育・健康・環境保護・ペットと共生・食と動物・命の大切さ・絶滅動物など)
  3. 3学期:仲間や後輩,そして親・地域の方にプレゼンを行い自分の生き方を明らかにしていく.(自分たちの提言をまとめ「命」と「自分」について発信していく.)
 (2)羽島中学校における展開
 「夏に挑む」課題として「獣医師」「動物」「命」をキーワードに,より深く調べ,考えて,新聞や作文にまとめることにしている.
 さらに,両校とも3年間を1クールとし,向う2年間(現在の1年生が3年生になるまで)本授業を継続することを希望しており,一過性ではなく,長期的な教育効果を目指している.
(3)獣医師会における展開
 児童生徒の示した興味や,学校関係者の関心,社会の反響を糧に,両校に対し向う2年間担当することとする.
 また,既に他の教育委員会などからも引合いがあり,県下各地に広めていきたい.マニュアル化したこの教材に新講師となる獣医師がオリジナリティを加え,バージョンアップを図りながら社会の要請に応えていきたい.

図7 正木小のカリキュラム
図7 正木小のカリキュラム 

 7 お わ り に
 「命」は我々獣医師の究極のテーマである.我々が動けば教育界も,子ども達も,そして社会も応えてくれる.
 今回の「いのちの授業」で,我々の蒔いた種が芽生えていくのが楽しみである.いじめや自殺など忌まわしい事件が,教育現場から姿を消し,自分の命,友達の命,生きとし生けるものの命を大事にできる,そんな子どもたちの健全な成長を心から祈りたい.
 そして,将来これが実り,受講生の中から獣医師が誕生し,あるいは「獣医師」を理解し「命」を意識する大人になってくれたら…などと楽しい思いが巡る.
また,今回の活動を,獣医師の新たな社会貢献の一端としたいと考えてきた.これからの新しい時代に即した獣医師会活動を思うとき,獣医師個々人の提案や理解の元に,将来を展望しつつ,今,できることを立ち上げていくことが大事である.新しいテーマをどんどん発信できるそういう地方獣医師会でありたいとも思う.
 それが社会貢献への第一歩であると考える.


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