5 人と動物の共通感染症と動物愛護 次に,感染症や動物愛護について調査したところ,犬や猫から人に感染する感染症があることは78%の組合では理解していたが,狂犬病の死亡率や犬以外にも感染源となる動物がいることについて理解している組合は,それぞれ16%,24%と少なかった.世界で毎年多くの犠牲者を出し,人と動物の共通感染症で最も恐れられている狂犬病についての知識はまだ不十分であった.さらに,飼い犬の登録や毎年の狂犬病予防注射の義務についても,半数以上の管理組合が理解していないことから,今後啓発の必要性を実感した.動物愛護法や身体障害者補助犬法関連では,聴導犬の認知度がやや少なかったものの,かなり理解していた. |
|||
6 ペットに関する意識調査 飼育容認のマンション(ルールをもつマンションを含め)の37件中26件(70%)が犬・猫の飼育は賛成しているが,飼育禁止のマンションでは44件中12件(27%)と賛成が少なかった.しかしながら,犬・猫などの動物が好きな住民は,飼育容認のマンションの54%よりも禁止のマンションが66%と多かった.これはペットが好きで飼育したいという願望はあるものの,ペット飼育によって住環境を壊されることを懸念しているものと考えられる. |
|||
7 今後のマンションライフとペット飼育 21世紀を迎えて,我が国は世界でも類をみないスピードで超高齢化社会が到来している.主に都市部の利便性のよいところに建設されるマンションは,戸建てに比べて防犯面に優れているだけでなく,段差がないので,高齢者の「終の棲家」として見直されている.平均寿命が延びた現在では,定年退職後に犬や猫を飼い始めても最後まで看取れることができる.今後はこれらの要望に応じたマンションの分譲がさらに増えていくものと考えられる.特に,高齢者が動物を飼育するにあたっては,日常のしつけや手入れだけでなく,適切な動物アレルギーや人と動物の共通感染症の知識を得ることが必要となる.また,動物の飼育は高齢者の生活にゆとりと張りを与えるだけでなく,犬の散歩を通じて規則正しい生活を送り,近隣住民とのコミュニティの形成にとっても有効であると考えられる. しかしながら,現実問題として,飼育禁止のマンションで飼育を可能にすることは住民合意というかなり高いハードルがある.マンション管理を所管する国土交通省もそのような状況を踏まえて2004年1月,標準管理規約を改正し,ペットの飼育については管理規約の中に盛り込み,細部は使用細則などで定めるべきであるとしている.具体的には,ペット飼育を容認する場合,認めない場合のそれぞれの規約文例を示している.さらに,飼育容認のペット飼育細則モデルを作成している. 一方,近年需要が高まりつつある高齢者専用福祉住宅においては,その計画段階で,国土交通省と厚生労働省が連携して企画を立案するが,マンションのペット飼育に関しても,国土交通省,厚生労働省,環境省が連携し,動物由来感染症と動物愛護の視点から提案を行い,住みよい生活環境を目指すことを考えていく必要がある. 1999年12月,「動物の保護及び管理に関する法律」が「動物の愛護及び管理に関する法律」として改正された.その際に,学校や福祉施設における動物の適正な飼養について,獣医師など専門家の指導を受けることを検討することが盛り込まれている.同じ建物に共同生活するマンションにおいても,適正な飼養や感染症予防に獣医師がこれまで以上に関与する必要がある. |
|||
8 ま と め 今回の調査により,飼育容認のマンションでも犬・猫に関する苦情は少なからず認められたが,飼育禁止のマンションでは,禁止にもかかわらずそれ以上の苦情があった.いずれにしてもこれらの苦情を少なくすることが,人と動物が地域で共生できる快適なマンションライフを送るポイントでもある.今後は住民が自主的にペットクラブを結成して,苦情処理の窓口だけでなく,動物と生活する楽しさを共有することにより,近所付き合いの少ないマンションにおける地域コミュニティの活性化に繋げていく必要があるだろう. 我が国では,2005年から人口減少時代に突入しているが,犬・猫の飼育数は今後も増加すると予想されている.獣医師の誓いで,「人々がうるおいのある豊かな生活を楽しむことができるよう,広範多岐にわたる専門領域において,社会の要請に積極的に応えていく必要がある」と宣言している.獣医師会においても,動物を飼育することによって得られる恩恵を周知し,人と動物が共生できる社会の実現に向けた取組みをさらに推進する必要がある.それによって,一部でまだ根強く残るマンションでのペット飼育禁止の常識を少しずつ改め,飼育禁止のマンションでも飼育可能になるように支援することが必要である. |
† 連絡責任者: | 久保勝己(大阪市天王寺区保健福祉センター分館地域保健福祉担当) 〒543-0002 大阪市天王寺区上汐4-3-2 TEL 06-6774-9973 FAX 06-6772-0308 E-mail : k-kubo@city.osaka.lg.jp |