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解説・報告

最近におけるマンションでの犬・猫の飼育事情

久保勝己(大阪市天王寺区保健福祉センター地域保健福祉担当係長)

先生写真 1 は じ め に
 従来,分譲マンションでは犬猫などのペット飼育の禁止が一般的であった.ところが近年分譲されるマンションでは,最初から犬猫の飼育を認めているところが多くなっている.この原因として,室内飼育が主流になったこと,単身者あるいは夫婦だけの世帯が増えていること,さらに昨年,我が国で65歳以上がはじめて20%を超えたように,高齢者のペット飼育の意欲が高まっていることがあげられる.これらを背景にマンションでも戸建てと同様にペットを飼育したいという要望がある.
 このような現状から,天王寺区保健福祉センターでは,昨年6月,区内の分譲マンション管理組合あてにペットの飼育状況の実態調査を行った.

 2 分譲マンションにおけるペット飼育状況
 回答が得られたのは,94件のマンションであり,表に示したように興味深い結果が得られた.まず,犬猫の飼育については管理規約により,飼育可37件(39%),飼育禁止44件(46%),あいまい規約13件(14%)の3種類に区分された.あいまい規約とは,他の居住者に迷惑,危害を及ぼす動物の飼育を禁止するなどである.
 アンケート結果により,マンションで犬猫の飼育が容認されているか否かは,築年数により傾向が大きく異なることが認められた.
 我が国でマンションが分譲されたのは昭和28年だといわれている.当初,分譲マンションでは犬猫飼育については規定されていなかったが,次第に住人から犬・猫についての苦情が出てくると,売主や管理者が飼育を禁止するようになった.その結果,マンションでは犬猫が飼育できないということが一般的な常識になった.そうなる前に我々獣医師がマンションにおける犬・猫の適切な飼育方法について,専門的な立場で周知する必要があったが,当時は,具体的に関与できなかったものと考えられる.ところが近年,犬・猫に対する飼い主の意識は家族の一員と変化してきた.そして,このようなことに伴い,マンションでの犬猫飼育の機運が高まっている.

表1

 3 分譲マンションの管理状況
 このような犬・猫の飼育容認の傾向は大阪だけではなく,全国的な傾向でもある.今後分譲されるマンションは,ほとんど犬・猫の飼育が可能になると予測される.
 全国の分譲マンションは昨年末500万戸を超え,約1,300万人が住んでおり,今後も毎年15〜20万戸が分譲される見込みである.これらの分譲マンションは区分所有法により,管理組合が主体となって維持管理を行う.今回の調査でも飼育できる犬の大きさは小型犬までが半数以上を占めていた.マンションでは散歩などで犬を外に連れ出す際,エレベータや廊下などの共用部分を通行する.住民とすれ違う際に飼い主が無理なく,抱きかかえられるような大きさに制限をしているところが多く,また,頭数についても1頭ないしは2頭までのところが最も多かった.犬・猫の飼育については,飼育を認めていてもルールを定めているところが多くあったが,半数近いマンションで,苦情が出たり,トラブルが発生していた.なお,飼い主が集まり,自主的に犬・猫の管理などを行う,ペットクラブなどを設置しているマンションは8件(22%)とやや少なかった.

 4 分譲マンションにおけるトラブル
 管理規約で明確に犬猫の飼育を禁止している44件のマンションでも,半数近い20件(45%)で犬または猫を飼育していた.そのほとんどで苦情が出たり,トラブルが発生していることがわかった.しかし,そのような中で,管理組合が規約を変更して飼育の容認を検討しているところは1件もなかった.管理規約の変更は特別決議事項で,区分所有者の4分の3以上の賛成が必要なので,管理組合の労力だけでなく,住民の合意形成が難しいことが原因と考えられる.しかし,今後社会環境の変化により,飼育禁止のマンションでも容認の動きが出てくる可能性はある.
 犬・猫の苦情では,排泄物の処理,吠え声・鳴き声,抜け毛の不始末,共用部分の汚損,臭いなどが多くあったが,これらは飼い主のモラルやしつけにより解決できると考えられる.また,動物アレルギーや動物由来感染症の苦情は犬で8件,猫で5件と意外と少なかった.全体的に犬も猫も飼育容認されているマンションが飼育禁止のマンションよりも苦情は少ない傾向にあった.特に,猫については,室内(専有部分)だけで飼育することが可能で,排泄物と抜け毛の処理を適切に行えば,ほとんど問題がないと考えられる.また,犬についても,マンション内で住民に配慮し,飼い主がしつけを行うことによって,あまり問題にならないことは,犬・猫飼育容認の半数以上のマンションで苦情がないことにより示唆された.
 飼育容認のマンションでは,苦情やトラブルの相談窓口を決めることにより,住民間で解決することが可能である.しかしながら,飼育禁止のマンションでは,ルールを守らない飼い主がいるとトラブルになりがちで,住民間で解決することが非常に難しい.

 

表2 表3

 

表4


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