会報タイトル画像


学術・教育

─ 獣医学における学位の取得(VII) ─
東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 博士課程

明石博臣(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)

先生写真 1 は じ め に
 東京大学大学院農学生命科学研究科には,獣医学を含めて現在12の専攻が所属している.獣医学教育は学部6年制であるので,4年間の博士課程のみ置かれているのは他の大学と同様である.東京大学では,平成3年から大学院の重点化を開始し,平成6年には農学系研究科を改称し農学生命科学研究科として再出発することになった.現在では,教員は大学院に所属し,学部教育を兼担して行っている.本研究科獣医学専攻の特色は,表1の獣医学専攻の沿革でお示ししたように,130年という長い歴史を持っていることがあげられる.最近では,大学院の重点化が始まった平成4年以降博士課程修了者300名,論文博士取得者162名を輩出してきた.これらの学位取得者は,獣医学の臨床・研究・教育に関わる様々な分野で活躍されている.博士号の取得は決してたやすいことではないが,課程博士においては3ないし4年間の研究活動の結果であるし,論文博士にあってはある時期における自身の臨床や研究活動の総決算とも言うべき大きな区切りになる.最初から手が届かないものとあきらめるのではなく,自分が行ったことの評価を求めるという気持ちで挑戦されてみてはどうだろう.そのための手助けができるなら,われわれ大学に籍を置くものにとってこれほど大きな喜びはない.これを読まれる獣医師の皆さんが,学位取得の第一歩を踏み出されることを願いながら,東京大学獣医学専攻の概要を紹介したい.

表1 東京大学獣医学専攻の沿革

  • 明治7年 現在の新宿御苑内に内務省農事修学場が創設
  • 明治10年 農学校と改称し,駒場に移転
  • 明治13年 家畜病院開設
  • 明治15年 下総種畜場内の変則獣医生徒が農学校に所属
  • 明治19年 駒場農学校は東京山林学校と合併し,東京農林学校と改称
  • 明治23年 東京農林学校を帝国大学に合併し,分科大学として農科大学設置,農学科,林学科,獣医学科を置く
  • 大正8年 東京帝国大学農学部となる
  • 昭和10年 農学部が本郷区向ケ丘弥生町に移転
  • 昭和19年 農学科(畜産学専修)設置
  • 昭和21年 農学科(畜産学専修)及び獣医学科を廃して,畜産学科(甲類,乙類)を設置
  • 昭和22年 東京大学と改称
  • 昭和24年 牧場設置
  • 昭和25年 獣医学科再設置
  • 昭和28年 東京大学大学院(新制)設置,家畜病院設置
  • 昭和39年 畜産学科及び獣医学科を統合し畜産獣医学科と改称
  • 昭和40年 農学部の所在地が地名変更により文京区弥生1丁目1番1号に変更
  • 昭和56年 大学院農学系研究科畜産学専攻と獣医学専攻を統合し畜産獣医学専攻(修士課程)を設置
  • 昭和58年 畜産獣医学専攻(博士課程)を設置
  • 昭和59年 獣医学学部教育6年制実施
  • 昭和63年 畜産獣医学科を獣医学科と改称
  • 平成元年 大学院農学系研究科畜産獣医学専攻を獣医学専攻と改称し,4年制博士課程となる
  • 平成3年 大学院農学系研究科に応用動物科学専攻(独立専攻)を設置
  • 平成3年 大学院農学生命科学研究科で取得できる学位に博士(獣医学)追加
  • 平成3年 家畜病院(ベテリナリーメディカルセンター)竣工
  • 平成6年 農学部を5課程19専修に改組.獣医学科は獣医学課程(獣医学専修)
  • 平成6年 大学院農学系研究科を大学院農学生命科学研究科に改称
  • 平成9年 生物生産科学課程に動物生命システム科学専修を設置(5課程20専修)
  • 平成12年 附属施設を学部附属から研究科附属に移行
  • 平成18年 附属牧場の所在地が地名変更により笠間市安居に変更
  • 平成18年 食の安全研究センターを大学院農学生命科学研究科の付属施設として設置
  • 平成19年 家畜病院を動物医療センターと改称

 

 2 目 的
 今年度から,農学生命科学研究科及び研究科に所属する各専攻は教育研究上の目的を明文化し,広く周知することになった.獣医学専攻の目的は以下の通りである.「本専攻は,動物の生命現象の解明及び病態の解明と克服,ならびに公衆衛生の向上を担う高度に専門的な人材の養成を図ることにより,動物と人類のよりよい関係を構築し,両者の健康と福祉の向上に寄与することを教育研究上の目的とする」.

 3 組  織
 図1に示したように,獣医学専攻は比較動物医科学大講座と病態動物医科学大講座に分かれる.比較動物医科学大講座は主に基礎系の講座が所属し,動物育種繁殖学,獣医解剖学,獣医生理学,獣医薬理学,獣医微生物学,獣医公衆衛生学の6研究室が所属する.病態動物医科学大講座は主として臨床系講座で,比較病態生理学,獣医病理学,獣医内科学,獣医外科学,実験動物学,獣医臨床病理学の6研究室からなる.この他に,組織的には獣医学専攻に含まれないが,附属牧場に実験資源動物科学研究室,動物医療センターに高度医療科学研究室があり,獣医学教育の責務を担っている.また,かつての畜産学科を継承する応用動物科学専攻の5研究室とは密接な連携を図っている.獣医学出身者が教員を務める医科学研究所の2研究室と農学国際専攻の1研究室は獣医学関連研究室として交流がある.さらに近年,食の安全が人々の大きな関心事になってきたので,平成18年11月に食の安全研究センターを研究科付属施設として立ち上げ,関連研究室を含めた獣医学専攻の10研究室が食品の安全性確保研究に参画している.平成19年4月現在,ほとんどの研究室は教授,准教授,助教,各1名から構成されている.

図1
図1

次へ