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論 説

 4 今後の課題
 (1)基本的対応
 輸入食品の安全対策における,[1]政府間協議などによる輸出国における生産・製造段階での対策,[2]検疫所における輸入時検査などの水際対策,[3]都道府県等による国内流通対策という3段階での対策,特に前二者について個々の問題にきめ細かく対応していくことが当面の課題である.
 また,現在でも厚生労働省のホームページにおいて,輸入食品の安全情報として,輸入・検査の実績,検査強化の内容,違反食品の詳細や輸入業者名,主な輸出国の基準など情報を公開するほか,毎年度の輸入食品監視指導計画の策定時には意見交換会を開催し,消費者や事業者の方々との双方向の意見交換を行っているが,国民の関心が高い分野であることから,さらなるリスクコミュニケーションの充実を図る必要がある.
 (2)ポジティブスト制度
 残留基準のない農薬が一定濃度以上残留する作物の流通を禁止する,残留農薬基準のポジティブリスト制度が昨年5月末からスタートしたが,平成18年6月1日から平成19年3月31日までの間の輸入時検査における違反件数は,残留農薬は447件,残留動物用医薬品は232件となっており,この間の1カ月当たりの平均違反件数を平成17年度の平均と比較すると,それぞれ9.4倍,5.2倍であり,全体で約7倍と違反件数が急増した.これら違反事例の多い食品の輸出国に対しては,生産段階における衛生対策の推進を積極的に求めるとともに,違反増に伴って,輸出国政府からの照会のほか,検査緩和や技術供与の要請も増加しており,これらに適確に対応し,円滑な制度の施行を図っていく必要がある.
 (3)BSE問題
 BSE発生国等から輸入される牛肉等については輸入禁止の措置等を講じており,米国やカナダのように2国間で輸入条件が合意された場合に輸入を認めている.米国産の対日輸出牛肉の輸入再開については,食品安全委員会のリスク評価結果を踏まえ平成17年12月輸入を再開した.しかし,その直後に輸入条件の遵守問題により輸入手続を停止し,同年7月に輸入手続を再開したが,さらにその後も条件違反が発見されており,輸入条件遵守の検証が課題となっている.このため,輸入時の検査や対日輸出認定施設の査察を継続することとしている.また,米国カナダはOIEでのBSEステータスの評価を契機として,貿易相手国に対してOIE基準に基づく輸出条件を求めており,米・加両政府と飼料規制やサーベイランスの内容について技術的な意見交換を行っている

 5 お わ り に
 輸入食品の安全性確保については,従来から議論されてきたテーマであるが,多くの指摘は輸入時の検査体制,特に食品衛生監視員数の不足に対するものであった.現在の体制が決して十分とは思わないが,検疫所に300名を超える食品衛生監視員の配置と高度な検査に対応する検査センターの整備を進めてきた.こうした体制の下,モニタリング検査や輸出国からの情報などにより違反の蓋然性が高い食品を特定して,検査命令により全ロット検査を行う現在のシステムはおおむね国民に対して説得力をもつものとなってきたと考えている.無論,食品衛生監視員の増員や資質の向上のほか,ポジティブリスト制度等に最新の基準に対応する試験検査機能の強化,さらにはますます高度化する試験検査技術の信頼性の確保などの課題も山積していることは事実である.
 一方,米国産牛肉の問題をきっかけに国会を始め,マスコミ等でも輸入食品の安全性確保における輸出国と輸入国の責任をどのように考えるか,さらには政府の責任,事業者の責任という側面も含めて議論された.輸出国の生産段階での安全対策が必要な問題,例えばBSE問題や残留農薬問題などは輸出国政府と協議して一定の保証を求め,日本側でも現地査察などを通じて検証する体制の充実が必要と考えている.


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† 連絡責任者: 道野英司(厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課輸入食品安全対策室)
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