III 農林水産省の獣医師の需給に関する検討会報告書に対する日本獣医師会の意見
- 今日,獣医師及び動物医療は,食の安全確保や共通感染症対策をはじめ,畜産業等の動物関連産業の振興,家庭動物の保健衛生の向上,更には,動物愛護福祉,自然環境保全など社会経済の発展,国民生活の安定に重要な役割を担っている.
- 今後とも獣医師及び動物医療が社会的要請に的確に応えていくためには,多様な職域に就業する獣医師について需要の動向に即した適正配置とともに,動物医療提供の質の確保を図る必要があるが,現状において,特に次の2点の取り組み体制を整備することが急務と考える.
(1)獣医師養成の基盤となる獣医学系大学の獣医学教育課程について,学部体制への再編・統合を推進することにより,教員数の確保,教育カリキュラムの整備などを図り,高度専門職業人養成課程として抜本的改善を図ること.
(2)獣医師に対する需要の動向を踏まえた地域間,職域間の偏在の是正等獣医師の適正配置を推進するとともに,卒後臨床研修をはじめとする不断の診療技術向上対策,更に,動物診療補助専門職制度を整備すること等により社会需要に応え得る動物診療提供の質の確保を図ること.
- 今回,農林水産省において獣医療法に基く獣医療の提供体制の整備に向けて新たな基本指針を策定するに当たり,その基礎資料としての獣医師需給の見通しを検討するため検討会が設置され,獣医師需給の現状分析と需給の見通しが検討・協議されたことは真に時宜を得たものとして評価し,日本獣医師会も検討会に参加してきた.
- しかしながら,今回提出された検討会報告書をみると,
(1)今後の需給政策を展開する上で最も重要なのは,獣医師の各就業分野について需給の均衡を図る上での課題を把握した上で今後の需給対策の方向を示し,獣医療法に基づき国が定める獣医療提供体制整備基本計画の策定に活かすことにあるにも係わらず,この視点での検討が欠落しており,30年先の獣医師の総数と供給数を示すことに終始した点は,失望の念を禁じ得ない.
(2)特に,報告書においては,獣医師需要の上限としてではあるが,
30年先の獣医師総数が3,500人程度不足する旨が試算値の中で示されたが,その前提条件が,今後,犬猫の診療回数の伸びが,全国一律に単純に20%増加するとする到底考えられないシナリオに基づくものであること.また,獣医師の供給数を見通すに当たり,現状で13%と大きな割合を有する獣医事に従事していない獣医師の動向について何ら考慮が払われていないことなどを考えるとおよそ実態から乖離した試算値が報告の中に盛り込まれたといわざるを得ない.
- 日本獣医師会としては,
(1)今後の獣医師需給については,予断を持つことなく,これまでの獣医師の供給動向の趨勢値をベースに,今後の社会経済情勢を踏まえ見積もった診療対象動物の飼育動向を踏まえた需要見通しにより算出した上で,各職域の偏在の要因を分析し,偏在是正の課題を併せ検討することが重要と考える.
(2)以上の観点に立ち,獣医師需給を見通した場合,報告書の試算の一つとして示された,現状値推計による見通し([1]全体需給は現状の供給数で今後ともほぼ均衡するが,[2]職域別にみると,今後個別の需給政策配慮が払われない場合,産業動物診療獣医師の不足が深刻化し,一方,小動物診療獣医師の過剰が顕在化する.)が今後の需給見通し中央値として位置づけられるべきと理解する.
- 今回の報告書が獣医学教育課程において講じられている入学定員政策に影響を及ぼすものではないと考えるが,今後,[1]獣医師の需給政策については,獣医療法に基づく獣医療提供体制基本計画制度の下で質の改善・確保に向けて職域偏在の是正を含む各般の獣医師需給に対する個別施策が,また,[2]獣医学教育については,引き続き現行の入学定員抑制策の下で,獣医学教育分野に特化した外部評価制度が運営され,文部科学省による教育改善に向けての施策が積極的に推進されることを期待する.
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(参考) 獣医師の需給に関する検討会による需給見通しの推計値(2020〜2040年)
(現状値推計に,小動物診療の受診回数の増加,診療効率化を加味した推計) |
注)産業動物診療に関する推計は,家畜飼養頭羽数に政策目標を勘案した推計値.政策目標を勘案しない場合は,200人必要獣医師数が減少する. |