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論 説

 対策としては,飼い主意識の向上に向けて,終生飼養の責務,屋内飼養のメリット等にかかる地道な普及啓発を継続的に行うことが重要であろう.また,基本指針の中間とりまとめの発表後,犬・ねこの引取業務や殺処分について,マスコミによる紹介なども相次いでいるが,取材があった際には,番組内で終生飼養を視聴者に呼びかけるよう,要請しているところである.今後とも,機会を捉えて広く終生飼養を呼びかけるとともに,さまざまな主体による普及啓発活動を促進していきたいと考えている.
 同時に,無用な繁殖を防止することが必要であり,飼いねこであれ,野良ねこであれ,不妊去勢措置を推進することが益々重要になってくる.
 いずれにせよ,取り組みの推進には,さまざまな関係者の理解と協力が不可欠であり,各地において,特に獣医師の方々と自治体,動物愛護団体の協力関係がさらに密接になることを期待するものである.
 なお,「殺処分数の減少を図る」という観点からは,ややもすると,自治体が引き取った後の返還,再譲渡に注目が集まりがちである.引き取りをせざるをえない,という現実があるなかで,こうした取り組みも推進していく必要があるが,その際,本来,すべての飼い主が終生飼養等の責務を果たせば,こうした取り組みも不要となる,ということを忘れてはならないと思う.
 (2)所有明示措置の倍増
 基本指針のもう一つの定量的目標は犬・ねこの所有者を明示する措置の実施率を25%(平成15年度)から倍増させるというものである.
 今回の法改正では所有者を明示する措置の一層の推進を図るため「動物が自己の所有に係るものであることを明らかにするための措置」(以下,所有明示措置)を環境大臣が定める仕組みが新たに設けられた.この規定を踏まえ,基本指針に先立って,平成18年1月に,環境省は,所有明示措置を定め,告示している.
 所有明示については,迷子の防止,逸走の防止等の観点から有効であることは,論を待たないところであるが,現状では,「その必要性を感じていない」という所有者も多い(図2).
図2
 図2 所有者明示をしていない理由
〔犬またはねこを「飼っている」と答えた者で,所有者明示を「していない」または「一部していない」と答えた者に,複数回答〕

 また,マイクロチップについては,その耐久性の高さ等に鑑み,個体識別ひいては所有明示の有力な手段と考えられるが,ある調査によれば,その普及率は犬の推定頭数の約1%に留まっている.
 こうした現状を背景として,所有明示措置においては,関係行政機関の責務として,普及啓発の実施,識別器具等の記号に付された所有情報を読み取るための体制の整備を位置づけたところであるが,これを踏まえて,基本指針においても,普及啓発や識別器具の普及のための環境整備の必要性を位置づけている.
 また,所有明示措置において,記号により所有明示が行われる場合にかかる考え方が示されたことに対応して,関係者の協議が行われ,犬・ねこにかかるマイクロチップデータの登録・管理について,これまで複数の団体により行われていたものが,今年から恣本動物保護管理協会に一元化された.
 環境省では,こうした動きや施策展開の方向性も踏まえて,おもにマイクロチップに係る基盤整備の一環として,リーダーの配備を地方公共団体へ働きかけるとともに,関係自治体間で情報源情報(情報の管理者にかかる情報)を共有するデータベースの整備,などを進めているところである.
 いずれにせよ,マイクロチップが一般の所有者に浸透しているとは言い難い状況を踏まえ,さまざまな機会を通じて動物の所有者に対して,その効果を訴えていく考えである.
 なお,今般の法改正により,特定動物(人の生命,身体等に害を加えるおそれがある動物)の飼養が全国一律の許可制となったが,厳格な個体管理の必要性に鑑み,許可個体にマイクロチップを埋め込むことが義務づけられた(一部,除外規定あり).このような規定を踏まえて環境省では,全国各地で地元の獣医師会の協力をえて,マイクロチップの埋め込み技術講習会を実施してきたが,施術を実施していただける獣医師が,まだまだ不足している.特定動物へのマイクロチップの施術には,難点はあるかと思うが,危険動物の所有者の迅速な発見等の観点から進めなければならない取り組みであること,獣医師のみが可能となる業務であることに鑑み,この場を借りて改めて獣医師の皆様にお願いしたい.

 4 お わ り に
 国,地方公共団体は,基本指針に沿って施策を検討,具体化していくこととなる.都道府県においては,平成20年3月までに動物愛護管理推進計画を策定することとなっており,その検討がはじまっている(一部は策定済).
 基本指針には,「関係者間の協同関係の構築」という視点を持つことのほか,随所に獣医師会等との連携のもとでの施策展開の重要性がうたわれている.
 もとより,獣医師の皆様には,獣医療の専門家として,あるいは,一般の飼養者と接する機会の多い識者として,動物愛護管理行政において重要な役割を果たしていただいているが,基本指針の策定を踏まえた今後の施策展開にあたり,さらなる協力,活躍がいただけることを願っている.
 全体を通じて,お願いごとが多くなってしまったが,これは,とりもなおさず,獣医師の皆様の積極的な協力なくして基本指針に掲げた目標の達成は困難であると小生が認識していることの証とご理解のうえ御容赦願いたい.


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† 連絡責任者: 築島 明(環境省自然環境局動物愛護管理室)
〒100-8975 千代田区霞が関1-2-2
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