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解説・報告

 

6 臨 床 症 状
 種によって一様ではないが,少なくとも元々の宿主と考えられているアフリカツメガエルは無症状で,また,アメリカウシガエルでは抵抗性があるといわれている.これらの種は,感染してもほとんど症状があらわれないか無症状で,体表から病原体が検出される状態で経過する.しかし,その他の多くの種では,感染するとさまざまな症状があらわれる.通常,食欲不振,沈鬱などの非特異的な症状で始まり,症状が進行するにつれて,縮瞳,筋協調不能,縮こまった独特な姿勢,立ち直り反射の消失,開口,皮膚の発赤,広範な皮膚の脱落などがあらわれ,発症してから2〜5週で死亡するとされている.ただし,すべてのカエルが同じような症状を示すわけではない.
 自験例として,ツノガエルとバジェットガエルに,脱皮の亢進(飼育水の混濁,多量の脱皮皮の浮遊),皮膚の乾燥感,体色のくすみ,体躯や四肢の硬直,神経症状(運動失調,縮瞳など)が観察された.特に異様と感じたのは,末期に観察される縮瞳で,死亡しても散瞳しないことである.また,ナンベイウシガエルでは,経過が長く,刺激に対する反応の鈍化のみが目立ち,内股部で皮膚の充血がみられた程度で,皮膚には著変がみられなかった.
 いずれにしても,種によって,症状も異なり,進行の速さも異なることから,感染初期での臨床診断は,非常に困難である.このことから,何らかの異常がみられる,いかなるカエルでも,最初にツボカビ感染の可能性を考える必要がある.なお,オタマジャクシでは,ケラチンが分布する口器にのみカエルツボカビが感染して,明瞭な病変を確認することは困難であり,保菌者として重要である.

 

7 診断・検査
 ツボカビ症の診断は,皮膚の病理組織検査,及び分子生物学的検査(PCR,リアルタイムPCR)によって行う.迅速診断法として,皮膚を掻爬し,無染色で遊走子嚢や遊走子を確認する方法があるが,診断には経験が必要で,慎重を期す必要がある.生前診断には,1)指端,水かきの生検(病理検査),2)体表スワブを用いたPCR法が用いられるが,後者が,生体侵襲も少なく,感度及び特異性が高く,推奨される.この他,培養法もあるが,培養は困難で,検出感度が低く,操作が煩雑,診断まで日数がかかるなどの問題があるために一般的ではない.現在,何らかの異常を示す個体,ツボカビ症疑似あるいはツボカビ症の個体と同一施設で飼育されていた個体を対象として,無料で,麻布大学病理学研究室と国立環境研究所が検査を受け付けている.ただし,検体送付費用は,原則として依頼者負担(飼い主など)となる.

8 一般臨床獣医師としての対応
1)飼い主への適切な指導
 一般飼育者の不安払拭を心がけた助言に努め,カエルツボカビの野外拡散の阻止を図る.[1]人間には感染しない,[2]カエルの生体・死体の野外放逐,遺棄の阻止,[3]カエルの飼育水・飼育容器の取り扱い方(消毒法),[4]生態系への影響,[5]非侵襲的診断法,[6]治療法,消毒法.
2)疫学的調査の実地
 検査依頼の受付,動物を受け取る際には,疫学的調査を意識した問診を行い,調書を作成する.
3)生体,検体の一次処理と検査機関への発送.
4)診断,治療,消毒,検体採取・送付,生体送付などについての情報が必要な時はコア獣医師に相談あるいは,ツボカビ症例の対処に当たっては支援を仰ぐ.

 

9 ツボカビ症の検査依頼,採材の実際
 愛好家や業者からツボカビ検査の依頼を受けた場合,コア獣医師(後述)を紹介する,ないしはコア獣医師に連絡をとり,採材方法,送付方法について説明を受ける.あわせて,ツボカビ症の検査手順マニュアル(麻布大学を始めとするいくつかの団体のホームページに掲載,コア獣医師所持)を読み,検査の手順を確認する.
 採材に際して最も注意すべき点は,カエルツボカビの拡散防止(二次感染の防止)である.生死に関らず,カエルを保定するとき,採材するときにはディスポーザブルの手袋を着用し,1匹ごとに交換する.また,処置後は,持ち込まれた容器や飼育水は元より,用いた器具,機材を消毒する.
 生前検査のための詳細な要領は「ツボカビ症の検査手順マニュアル」に掲載したが,PCR検査のための採材に際して,注意すべき点は,採材部位で,カエルツボカビは,特に,図1のように手掌部と足蹠部,内股部(水のみパッチ),腹部の皮膚に高率に感染しており,さらに図2のように皮膚表面の角質層に感染していることから,体の1部を強く綿棒で拭うよりは,高感染部位とされる複数個所から満遍なく,スワブを採取した方がよい.また,再検用を含めて綿棒2本を採材する.検体は冷凍で国立環境研究所に送付する.
 死体及び飼育放棄された生体の検査は,麻布大学病理学研究室が担当しており,送付に要する時間にさらに腐敗が進むような検体を除いて,無処置のまま,死体は冷蔵で(冷凍すると病理検査には適さなくなる),生体は,生体のまま常温で,麻布大学に送付する.死後変化が強い場合には,PCR検査用にスワブ,四肢末端部及び腹部皮膚を採材し,国立環境研究所に冷凍で送付する.残りの材料は,口から,及び腹部を切開し,腸管にホルマリンを注入し,さらに,ホルマリン固定液内に浸漬して,液漏れに注意して,常温で麻布大学へ送付する.

図1
図1 カエル模式図(腹面),網掛け部分にカエルツボカビが感染しやすい.(左右指端同様) 
図2
図2 日本で初めて確認されたツノガエルの皮膚組織標本(HE染色).サークル内に,表皮表層の角化層内に多数のカエルツボカビが観察される.

 

10 野外におけるツボカビ症対策
 2007年3月現在,まだ,カエルツボカビは野外では発見されていない.しかし,先にも述べたように飼育下ではかなり汚染が広がっていると考えられている.野外に拡散すると諸外国の実例をみても,生態系にとってきわめて深刻な事態となることが予想される.このため,早期発見,早期対応が必要である.現在,日本固有種への病原性はもとより,臨床症状も把握されていないため,野外でツボカビ症を簡単に発見する方法は確立されていない.しかしながら,慶応大学福山欣司博士ら(カエル探偵団)が,野外症例における疑似症例発見の一助とするために「野外でカエルツボカビ症を発見するための手引き(Ver.1.0)」,さらに,疑似症例受付体制を整え「カエルツボカビ対策簡易マニュアル(野外調査をされる方へ)」を作製し,各ホームページに掲載したので,野外例の対処のための参考資料とされたい.

11 コア獣医師制度(カエルツボカビに関する一般獣医師支援制度)
 一般獣医師の相談役と同時に,一般飼育者向けの相談窓口,動物の引き取り,検体採取,疫学調査を行うことを主たる業務とするコア獣医師制度を発足した.コア獣医師は,日本の生態系保持のために立ち上がった獣医師により構成され,すべてボランティアである.コア獣医師には獣医師会からの情報以外に,研究機関からの詳細・最新の情報が配信されている.3月現在46名のコア獣医師が全国に配置されている.(詳細は各ホームページ参照)

 

12 消  毒  法
 手指や備品の消毒薬は,細菌,発育中及び胞子の状態の真菌類に効果的である必要がある.飼育水も,下水に流す前に必ず消毒してから排水する.ツボカビ症のカエルの飼育容器の中にあった植栽,床敷,食べ残しの餌などは消毒できないため,焼却処分する.消毒薬及び消毒方法の具体例について,表に示した.

最  後  に

詳細な解説は,以下のサイトに掲載してある.
麻布大学:http://www.azabu-u.ac.jp
日本獣医病理学会,日本獣医病理学専門家協会:
 http://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/byouri/JSVPJCVP/index.html
日本爬虫両棲類学会:
 http://zoo.zool.kyoto-u.ac.jp/herp/indexj.html
カエル探偵団:
 http://web.hc.keio.ac.jp/~fukuyama/frogs/index.html

野外での異常なカエルの死体を発見した時の連絡先
カエル探偵団 カエルツボカビ症対策係
  E-mail : tubokabi@frog.econ.keio.ac.jp
  FAX 045h566h1333


表 消毒方法一覧表



† 連絡責任者: 宇根有美(麻布大学獣医学部獣医学科病理学教室)
〒229-8501 相模原市淵野辺1-17-71
TEL ・FAX 042-769-1628 E-mail : une@azabu-u.ac.jp


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