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獣医師のためのツボカビ症(Chytridiomycosis)解説
宇根有美†(麻布大学獣医学部助教授) 1 は じ め に アジアを除く世界各地の両生類で個体数減少に深く関っているとされるツボカビ症を,2006年12月国内で初めて発見した.ツボカビ症は両生類にとって過去最悪の感染症として捉えられ,生態系の崩壊にも繋がりかねない重大な感染症であることから,2007年1月13日,16の関係諸機関や団体とともに,国民,動物業者,研究機関,展示施設,マスコミ,関係省庁等に向けてカエルツボカビ症侵入緊急事態宣言を発表した.これはツボカビ症が野外に拡散した場合,根絶は非常に困難であったため,わが国に生息する両生類と生物多様性の保全を考えて,可及的速やかな対応が必要との判断であった.しかしながら,現在,両生類,さらに,それらに寄生する生物に対して,なんら法的整備がなされておらず,行政によるカエルツボカビコントロールは期待できない.そこで,爬虫類と両生類の臨床と病理のための研究会,エキゾチックペット研究会,野生動物救護獣医師会,日本獣医師会,日本小動物獣医師会,横浜市獣医師会などに協力を要請し,一般市民や販売業者等へのツボカビ症に関する相談への対応や,正確な情報の配信を依頼した.緊急事態宣言の中で,ツボカビ症に関するQ&A,解説書,検査方法,検査機関等に関する窓口は紹介したが,飼育者等の相談窓口や,最も避けなければならない野外へのツボカビ拡散の阻止等の対策の担い手は獣医師しかないと思われる.そこで,最新情報を加え,ツボカビについて改めて紹介する. |
2 カエルツボカビBatrachochytrium dendrobatidisとツボカビ症(Chytridiomycosis)
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3 形態と生活環 カエルツボカビの生活環は非常に単純で,遊走子と遊走子嚢の2形態からなっている.遊走子は,精子のように1本の鞭毛を有しており,水中を遊泳し,両生類の皮膚に到達,侵入することで,感染が成立する(感染は100個程度の遊走子により成立し,致死的).表皮の角質層内に侵入した遊走子は成長するとともに,遊走子嚢を形成し,これが分裂して遊走子を形成する.成熟した遊走子は,皮膚表面に開口する遊走子嚢の放出管より水中に放出される.また,カエルツボカビは,一般的カビとは異なり菌糸を形成しない. カエルツボカビで,特筆すべき点は,発育にも感染にも水が必須で,防疫には水の管理が重要となる.遊走子は水道水で3週間,精製水では4週間,湖水ではさらに長い期間生存することができ,両生類に寄生していなくても,自然界で最長7週間生存できる(条件寄生性).一方,乾燥には弱く,死滅する.発育至適温度は17〜25℃で,23℃が最も適しているとされている.ある報告によると高温には弱く,28℃で発育が止まり,30℃以上になると死滅するとされている. |
4 発 生 状 況
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5 生態系の影響 カエルを含む両生類の個体数の減少と絶滅は,生態系の崩壊,生物多様性の消失に関る恐れがある.たとえば,1)捕食者であるカエルの減少により昆虫数が増加して,農作物への被害や昆虫媒介性の感染症の増加を引き起こす.2)カエルを捕食する動物の連鎖的個体数の減少.たとえば,タガメ,ゲンゴロウなどの水生昆虫,ヤマカガシやサギなどの一次捕食者の減少,さらに,カエルを含めたこれらの動物を捕食する高次捕食者(猛禽類など)の減少も起こりうる.ちなみに,絶滅危惧種であるイリオモテヤマネコは,季節によって餌の70〜80%をカエルが占める時期がある. |