【別紙3】 |
社団法人 日本獣医師会 |
狂犬病対策について |
|
- 狂犬病の現状
(1)狂犬病は,狂犬病ウイルスの感染による人と動物の共通感染症です.すべての哺乳類が感染し,人が感染し発症した場合,恐水,恐風,興奮,麻痺等の神経症状を示し,呼吸障害により100%死亡することから,古来,人類にとって最も恐るべき感染症の1つとされています.
(2)狂犬病は,アジア,米国,EU諸国をはじめ世界各国において発生がみられますが,人においては,毎年3〜5万人の死亡例が報告されています.人の発生の感染源の多くは,狂犬病に感染した犬やコウモリ等の動物による咬傷事故(感染動物の唾液にウイルスが含まれます.)が原因とされ,犬をはじめとする動物に対する不断の予防対策が重要であります.
(3)日本は,現在,英国,豪州等とともに狂犬病の例外的な清浄国ですが,アジア諸国においては,インド,東南アジア諸国をはじめ,中国,韓国においても発生しており,中国においては,最近の犬飼育の普及等のペットブームを背景に狂犬病がまん延し,毎年3,000人規模の死亡者(感染症による死亡報告数は結核に次ぐ第2位)が報告され,大きな社会問題となっています.
- 狂犬病対策の重要性
(1)日本における狂犬病の最終発生は,犬が1956年(昭和31年),人が1954年(昭和29年)とされていますが,その後,1970年(昭和45年)ネパール旅行の帰国者1名に,また,2006年(平成18年)フィリピン旅行の帰国者2名に,帰国後の狂犬病の発症・死亡例が確認されております.
(2)近年,人と物の国際交流,グローバル化が進展する中,狂犬病の侵入の機会は増大しており,一方,犬,猫等の家庭動物の飼育が普及し,家庭生活の伴侶として広く受け入れられてきている中,BSE,SARS,高病原性鳥インフルエンザの例をみるまでもなく,人と動物の共通感染症のなかでも最も注意を要する狂犬病に対する危機管理の不断の備えが重要であります.
- 日本における狂犬病対策
狂犬病対策としては,現在,次のような動物に対する衛生措置が「狂犬病予防法」に基づき実施することとなっております.
(1)「発生予防対策」として,[1] 飼育犬の登録と定期予防注射,[2] 未登録犬の捕獲と抑留
(2)「侵入防止対策」として,犬,猫等の特定動物に対する輸入検疫
(3)「発生時のまん延防止対策」として,[1] 狂犬病感染動物の隔離,[2] 飼育犬の移動制限と一せい検診・強制予防注射の実施
- 狂犬病予防対策の課題
(1)日本のような狂犬病清浄国において実行すべき対策として重要なのは,[1] 海外からの感染動物の侵入防止を図るための輸入検疫とともに,[2] 国内対策として国内飼育動物の発生予防対策を徹底することにより,狂犬病侵入時のまん延防止に備えることにあります.
(2)しかしながら,
-
「輸入検疫」については,犬に加え,猫,あらいぐま,スカンク,きつねが狂犬病の検疫対象動物に追加されましたが,[1] 依然として検疫対象は一部の動物であり,また,げっ歯類動物を中心とした野生動物対策が未整備であること.[2] 外国船舶に搭載された犬の不法上陸事例が頻発する等,現状の輸入検疫による侵入防止には,自ずと限度があります.
- 一方,「発生予防対策」については,家庭動物としての犬の飼育頭数が順次増加する中,飼育犬の全数把握としての登録と定期予防注射は,いずれも周知・徹底されておらず,登録率は5割水準,定期予防注射の実施率は,実に4割を下回る低水準にあると見込まれます.
- 今,狂犬病対策にとって重要なこと
(1)狂犬病の予防対策において,感染源となる動物に対し,予防注射を実施し免疫を付与することにより流行を防止するためには,WHOガイドラインにおいて,少なくとも70%以上の免疫水準を常時確保する必要があるとされています.
(2)狂犬病予防法においては,犬の所有者に対し市町村等自治体に「犬の登録」を行うことと毎年の「定期予防注射」を受けることが義務付けられています.人に対する狂犬病の感染源として,国内の飼育犬について登録の徹底と定期予防注射を行うことにより,常時一定レベルの免疫付与を行い,狂犬病侵入時における動物間での流行防止と伝播経路の遮断のための措置を講じておく必要があります.
(3)また,狂犬病予防法に基づく狂犬病対策については,広く国民的理解の下で推進する必要があります.狂犬病の最終発生から50年が経過する中で狂犬病のリスク管理に対する意識が低下することなく,また,犬を飼育される方が狂犬病に対する正しい知識をもっていただき,狂犬病の予防対策が犬の所有者の責務として定着するよう一層の理解を深めていく必要があります.
(4)犬による咬傷事故は,毎年,届出だけでも6,000件以上が報告されています.万一の侵入事態に遭遇した場合,現行の予防注射の実施率では社会パニックを引き起こしかねません.
(5)犬の飼育者自身が愛犬を守ること.そのことが人の命を守り,社会を守ることにつながります.
|
|