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7 新臨床教育研究棟(9号館)計画
 高度化した獣医療ならびに臨床教育の充実・強化を図る目的で完成した新動物病院に引き続き本学ではさらなる臨床教育の向上を目指した新臨床教育研究棟の新築工事の建設計画が進められてきた.平成18年2月,いよいよ建設計画が実行に移され新臨床教育研究棟(9号館)の新築工事が着工された.完成は平成18年11月に竣工予定である.
 この新臨床教育研究棟はANMECに隣接しており,建物は2階建で1階床面積1,068.48m2,2階は904.72m2,延べ床面積1,877.85m2の近代的な教育研究施設となる.
 1階には臨床講義室と獣医外科学実習室,獣医内科学実習室及び獣医放射線学実習室の3実習室の他,獣医臨床繁殖学研究室が計画されている.2階には獣医外科学研究室,獣医内科学研究室,獣医放射線学研究室及び獣医臨床病理学研究室の4研究室が予定されている.
 新臨床教育研究棟(9号館)の各実習室ではANMECの専門診療科を巡回するローテイション教育をより理解する上に必要な臨床診断・治療のテクニックを学習させるための施設であり,臨床教育の新たな拠点として期待されている.
 新臨床教育研究棟(9号館)の完成後はANMECとの隣接によって,両者の連携強化がより一層高まることから診療活動や教育・研究活動により一層の成果が期待されるところである.さらに将来はANMECと新臨床教育研究棟の2階同士を橋で連結させるなどの構想も計画されている.

8 動物医科学研究センター
 平成17年3月,動物医科学研究センター(Veterinary Research Center)が動物病院の増築と同時に新設された.動物医科学研究センターの建物は,鉄筋コンクリート造り3階建で,動物病院の2階(動物病院が1/3含有)と3階を占める延べ床面積2,735m2の近代的な研究施設である.施設内には,DNAシーケンサー,フローサイトメーター,リアルタイムPCR,マイクロアレイなどの最新の研究・分析機器が備えられている.
 本研究センターは,文部科学省によって選定された私立大学高度化推進事業の学術フロンティア共同研究プロジェクト「人獣共通感染症のサーベイランスと制御」に基づく先端的研究施設として誕生した.本プロジェクトは,大学院獣医学研究科で行われている人と動物の共通感染症研究と密接に関連する生物資源科学研究科及び医学研究科の研究者に加え,国内や海外の研究者とも連携しながら,有機的な組織のもとで高度先端的研究を進めることを特徴としている.
 現代社会では犬・猫などの伴侶動物(コンパニオンアニマル)や外来動物(エキゾチックアニマル)はヒトと共通の生活環境を介してより密接な関係となり,動物から人に,逆にヒトから動物に感染する「人と動物の共通感染症」の発生する機会が懸念され,新たな脅威となっている.また,国際化した社会では,人や物資の移動がボーダレスになるのに伴い,新興感染症や再興感染症がわが国に侵入し,人や家畜に感染する機会はきわめて高くなっている.このような背景に基づいて,本研究センターでは,各種人獣共通感染症の調査と制御システムを構築し,その病態を解明するとともに,迅速な診断,治療,予防法を確立し,獣医学のみならず広く社会に貢献することを目的としている.すでに5つの研究ユニットを基盤として活動が開始されており,微生物学,免疫学,分子生物学,感染制御学ならびに公衆衛生学などの専門領域で高度な先端的研究を展開し,多くの研究成果を上げている.また,研究の成果や情報を社会に還元する一環として,国内外から最先端の研究を行っている研究者を招聘し,公開シンポジュウムを毎年開催するとともに,本プロジェクトの研究者によるオープンセミナーを毎月定期的に開催している.
 今後,本研究センターが日本における人獣共通感染症の研究拠点となり,その研究成果を広く社会に還元することによって,より安全で豊かな社会の発展と,人や動物の福祉向上に貢献していくことが大いに期待されている.今後,動物医科学研究センターとANMEC,自治体などが有機的に連携して感染症対策や動物福祉の向上に寄与できるように展開する予定である.

9 今後の展望
 ANMECは社会に貢献できる優秀な獣医師を育成する役目を担っており,そのためには教育病院としての規模と質を備えていなければならない.ANMECの完成によって,ハード面においては構想通りの規模と機器が具備されるなど施設としての充実強化がなされている.したがって,今後は施設をより機能的に運営するために必要なソフト面での充実が急務であると考えている.それには,社会的ニーズに的確に応えるために必要な各専門科を増設した診療体制を構築することが必要であり,そのための教員増加とその診療支援体制の強化が当面の課題となってくる.今後は,その組織体制基盤の強化に向けて前進を図り,クライアントに対する医療サービスや学生のローテイション教育ならびに卒後研修教育の向上に努めていきたいと考えている.しかし,各専門診療科の充実強化に向けて,どの獣医療施設においても専門医は不足していることから,今後は,専門医の育成のために中期的,長期的計画を立案して欧米に匹敵する専門医制度を確立する必要があり,当面は農林水産省,日本獣医師会,教育機関及び学術団体が相互に連携を取りながら推進して行く必要がある.すでに学術団体では現在,その確立にむけて精力的な活動が開始されている.
 動物病院(ANMEC)では,平成11年度から高度医療,専門診療に対応する専門医の養成を目的とした有給研修医制度がスタートし,専門医制度(レジデント制度)に向けた人材育成を行っている.また,本学では海外の専門医との学術交流の場として米国のワシントン州立大学(WSU)と姉妹校にあり,毎年,海外非常勤講師として専門医を招聘して,ANMECスタッフとの臨床技術交流や臨床講義を分担で担当するなどして専門教育を実施しており,すでに4年の実績を上げている.今後は,さらに国際間での連携も視野にして専門診療体制や専門医育成制度の向上を図って行きたいと考える.
 一方,研究面では,高度医療に対する臨床研究を活発に行い,その研究成果を診療に反映させるように努力するとともに先端的医療の導入を推進するなど臨床研究体制を確立していきたいと考える.また,ANMECと動物医科学研究センターとが有機的に連携して感染症対策や動物福祉の向上に寄与できるように展開を図っていく予定である.
 新臨床教育研究棟(9号館)の完成によって,ANMECとの連携がさらに強化され,より一層,診療,教育,研究活動が一段と向上することを確信するところである.
 最後に,大学病院の使命は,社会に貢献できる優秀な獣医師を養成する機関であると同時に地域医療センターとしての役目が果たせるように,最新医療に関する研究成果や情報を提供する場としてANMECセミナーを始め,各種の講習会の開催などを行い,獣医師の生涯教育の向上に寄与したいと考える.
 今後,臨床獣医師との連携をさらに図りながら多くの獣医師の先生方に利用されるANMECに発展するように努力したい.

 

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† 連絡責任者: 田中茂男(日本大学生物資源科学部獣医学科獣医外科学研究室)
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