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行政・獣医事

 

【別紙2】
要   請   書
18日獣発第146号
平成18年10月16日
厚生労働省健康局長
外口 崇 様
社団法人 日本獣医師会
会 長 山根義久
狂犬病対策の充実・強化について
 人と動物の共通感染症対策を推進する上において,獣医師及び動物医療の担うべき役割は,先のBSE,高病原性トリインフルエンザの例をみるまでもなく重要性を増してきております.今後とも感染症法をはじめ関係法令に基づき地方自治体が担うべき動物衛生対策,更には獣医師及び獣医師会が担うべき責務の地域における円滑かつ適正な推進につき格段のご指導・ご支援の程お願いする次第であります.
 さて,共通感染症対策,なかでも狂犬病については,東アジア等近隣諸国とりわけ中国における惨状を目の当たりにするとき,また,国内では外国船籍登載犬の不法上陸事例の頻発等その侵入リスクは増大してきているところであります.
 一方,貴省の特別研究事業においても報告され,また,本会もかねてより指摘しているとおり,狂犬病対策の要となる国内飼育犬の登録は5割水準,定期予防注射の実施率は4割を下回る水準となっており,最近における家庭動物としての犬の飼育率の増加等国民生活における人と動物の絆が増してきていることを考え合わせるとき大きな懸念材料となってきております.
 ご承知のとおり,狂犬病は,その病性から最善かつ不断の予防対策の実施が肝要であり,狂犬病予防法においては犬の登録と定期予防注射を犬の所有者の義務として課しているところであります.
 今回,貴省においては,犬の登録と予防注射を実施した証として犬に装着する「鑑札及び注射済票」の様式の変更を検討中と聞き及ぶところでありますが,関係省令の改正に当たっては,狂犬病対策を推進する上において,現状で最優先で取り組むべき課題を十分見極めた上で,また,装着様式についても,これまでの貴省における検討の経緯を踏まえ,実効ある対応として次の措置を講じられますよう要請します.
  1. 狂犬病予防対策の確実な推進と普及・啓発
    (1)狂犬病予防対策の要となる飼育犬の登録及び予防注射の実施率向上を図るため,先ず,狂犬病予防対策に係る自治体事務が当該地区を活動の地域とする地方獣医師会との連携の下で組織的に円滑に推進されるよう地域ネットワーク体制の整備を願いたいこと.
    (2)狂犬病予防法に基づく狂犬病対策については,広く国民的理解の下で推進する必要があります.狂犬病の最終発生から50年が経過した中で,狂犬病のリスク管理に対する意識が低下することなく犬の所有者の責務としての狂犬病対策の位置づけについて一層の普及・啓発対策を推進願いたいこと.

  2. マイクロチップによる個体識別番号による登録方式の導入
    (1)「鑑札及び注射済票」の装着率の向上は,単に,その様式を市町村長の自由裁量に委ねることでは達成し得ないことは明らかであります.行政行為の実施状況の対象動物における明示措置の担保は,動物の個体識別の確実性と個体データの適正管理をおいてほかにはありません.
     一方,犬の登録のあり方については,平成6年に貴省自らが主催した「犬の登録に関する研究会」において,マイクロチップによる登録及び注射済票一体化の方向がとりまとめられ,厚生省生活衛生局長に答申された経緯があります.また,動物の個体識別については,国際標準化されたマイクロチップによる個体番号の登録・管理方式が各種法令に基づく動物の登録管理措置としても普及してきている実状にあります.
    (2)そこで,今回の省令改正においては,犬の登録及び注射済票交付事務において,マイクロチップによる様式一体化が推進し得るよう,改正省令の条文に,「鑑札及び注射済票の装着については,薬事法に基づき承認を受けた動物用体内埋め込み型の個体識別器具の様式としての導入を可能とする.」旨を明示するとともに,併せて自治体における個体識別番号による登録事務の受け入れ体制を整備願いたいこと.

 


【参考資料1】

1 犬の飼育頭数,登録頭数,予防注射頭数の推移
1 犬の飼育頭数,登録頭数,予防注射頭数の推移

 

2 動物の輸入検疫頭数の推移
2 動物の輸入検疫頭数の推移

 

3 犬の咬傷事故報告件数の推移
3 犬の咬傷事故報告件数の推移

 


【参考資料2】
中国における狂犬病の状況
  1. 2005年の中国における狂犬病による死亡者は約2,500人で,伝染病による死亡者の20%を占め,死亡者数の2位は狂犬病(1位は結核,3位はエイズ)となっている.
     2006年に入り,中国各地において,狂犬病の犬の数,犬に呟まれて死亡した人の数が増加している状況にある.これら住民の死亡をきっかけに,各地で,犬の強制処分や強制ワクチン接種が講じられている.
    • (1)山東省の状況
      • 8月7〜13日には16人が狂犬病で死亡.
      • 当局は50万頭以上の犬を処分(destruction).
      (2)雲南省の状況
      • 最近3人が犬に咬まれて狂犬病で死亡.
      • 当局は約5万頭の犬を暴力的に処分(violent destruction).
      (3)北京市の状況
      • 北京だけでも10万頭の野犬,50万頭の野良猫がおり(NGO調べ),狂犬病のリスクが増大している.
      • 2006年初めから6万人以上が犬または猫に呟まれた.狂犬病5例発生.
      • 効果的な野犬対策,注意喚起等は講じられていない.
      • 曝露後免疫の2006年上期累計は69,332件
      (4)上海市の状況
      • 2006年に4万5千人が犬(ペット犬)に咬まれている.2005年の同時期に比べて40%増加.3人が狂犬病で死亡.
      • 住民はワクチン接種をしたがらず,狂犬病は再発の傾向にある.
      • 犬に咬まれたら直ぐに暴露後免疫をとの旨の住民啓発キャンペーンを行う予定とのこと.
      • 犬・猫はライセンス制としワクチン接種.違反したら200〜1,000元(約3,000〜15,000円)の罰金.

  2. 中国国内の人における狂犬病死亡者数
      • 2004年2,651人
      • 2005年2,545人
      • 2006年(1〜9月)2,257人
(資料:Pro MED等)

 

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