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解説・報告

17 生殖器系疾患
 ハムスター類では,生殖器系疾患の発生は比較的少なく,ときに卵巣嚢腫や子宮蓄膿症がみられる程度である.
(1)卵巣嚢腫
 卵巣嚢腫では,それが大きい場合には,腹部の膨満が観察される.しかし,そのほかには,特に特徴的な症状は認められないことが多い.
 治療には,卵巣及び卵管,子宮の摘出を行う.
(2)子宮蓄膿症
 発生頻度は高くはないが,子宮蓄膿を発することもある.
 ただし,ハムスター類では,前述のように発情期に膣から多量の粘液を分泌することが多い.ときとしてこれを子宮蓄膿症などと誤って判断することがあるので注意を要する.
 子宮蓄膿症を診断するには,超音波検査や膣分泌物の細胞診などが有用である.
 治療は,通常,雌性生殖器系の摘出により行う[3].

18 避妊手術及び去勢手術
 齧歯類の避妊手術は,上述の卵巣嚢腫や子宮蓄膿症のような生殖器系疾患の治療のために行われるほか,繁殖の防止のためにも実施される.
 齧歯類では,雌雄の個体を同居させると,繁殖が繰り返され,飼育個体数が増加することがある.特にハムスター類やマウス,ラットは,短期間のうちに頻回に繁殖が行われ,飼育個体数が増加しがちである.こうした事態に陥るのを防止するのも,齧歯類に対する避妊手術や去勢手術の目的となる.
 ただし,ハムスター類の場合,特にゴールデンハムスターの場合は,上述のように,雄に対する雌の攻撃性が強いため,常に雌雄を同居させて飼育することは推奨できない.そのため,繁殖防止のために避妊処置または去勢処置を施すことは,必ずしも必要ではないかもしれない.
 なお,避妊手術を実施することにより,雌の攻撃性が低下する可能性は否定できないが,その真偽は明らかではない.
(1)雌における避妊手術
 避妊手術法は,基本的には犬あるいは猫における方法と同様である.
 なお,ハムスター類とは異なるが,ネズミ科Muridaeのアレチネズミ亜科Gerbillinaeに属するスナネズミ Meriones unguiculatus では,雌雄ともに腹部正中に皮脂腺が存在するので,腹部の正中切開を行う場合,その部分を避け,半楕円形を描くように皮膚を切開するとよい[1].
(2)雄における去勢手術
 去勢手術も,犬や猫に対するのと同様の方法により実施することができる.
 ただし,ハムスター類では,鼠径輪が開いているため,精巣が陰嚢から腹腔内に侵入しやすい傾向がある.精巣が腹腔内に入り込んだ場合には,腹部の尾側を軽く圧迫し,精巣を陰嚢内に戻すようにする.
 また,逆に腹腔の内容が陰嚢内に侵入し,切開創から脱出するのを防止するため,去勢手術はいわゆる閉鎖法によって行うべきである[1].
(以降,次号へつづく)

膣垢の検査法

 ハムスター類やマウス,ラットなどの齧歯類の交配適期を判定するには,膣垢像を検査するのが有用である.膣垢とは,膣上皮に由来するR離細胞などを採取したものをいう.
 これらの齧歯類では,性周期の各時期ごとに膣上皮が特異的な変化を示すため,その状態を観察することによって,性周期のいずれの段階にあるかを知ることが可能である.
 膣垢の採取にはスポイトや綿棒を使用するが,ここでは以下,スポイトを用いる方法を記載する.
 スポイトは軟質のガラス管(外径6〜8mm,長さ約10cm)を使用して,ガラス細工により作製する.先端の開口部の直径は1.5〜2mmとする.また,ハムスターの生殖器に障害を与えないように,先端部分はガラス細工の際に丸めておかなければならない.
 検体の採取にあたっては,スポイトに少量の水を吸引した後,その先端を動物の膣口に2〜3mmほど挿入し,膣内を洗浄する.具体的には,スポイトの一端に装着したゴムキャップを用いて,2〜3回にわたって水の出し入れを行う.
 こうして採取した膣内洗浄液の1滴をスライドグラス上に滴下して塗抹し,風乾させた後,ギムザ染色を施して鏡検する.


引 用 文 献
[1] Bennett RA and Mullen HS : Ferrets, Rabbits and Rodents : Clinical Medicine and Surgery, Quesenberry KE and Carpenter JW ed, 2nd ed, 316-328, Saunders (2004)
[2] Brain PF : Anim Technol, 43, 99-105 (1992)
[3] Donnelly TM : Ferrets, Rabbits and Rodents : Clinical Medicine and Surgery,Quesenberry KE and Carpenter JW ed, 2nd ed, 299-315, Saunders (2004)
[4] 深瀬 徹:獣畜新報,54,652-655(2001)
[5] 深瀬 徹:日獣会誌,59,368-371(2006)
[6] Harkness JE and Wagner JE : The Biology and Medicine of Rabbits and Rodents, 4th ed, 155-159, Williams & Wilkins (1995)
[7] 毛利資郎:実験動物技術体系,日本実験動物技術者協会編,83-107,アドスリー(1996)
[8] 山口孝雄,小出正雄,高橋和明:実験動物技術,22,39-47(1987)



† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
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