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論 説

学会を基盤とした産業動物獣医師の海外交流推進に期待する

浜名克己(鹿児島大学名誉教授・世界牛病学会名誉理事)
 
先生写真 1 は じ め に
 日本獣医師会が平成18年度事業計画(本誌,第59巻,第8号506〜508頁)において,事項別の対応として,「獣医師道の高揚」に続いて,「獣医学術の振興・普及及び調査研究に関する事項」をあげているのは,まことに頼もしい.
 すなわち日本獣医師会(地方獣医師会を含む)は,獣医学術を基盤として成立している団体であり,諸活動の根源に獣医学術(真理)の知識と技術の応用を据えて,さまざまな社会の負託に応えているのである.この点が,たんなる同業者の同好会的な団体や,自らの利益を追求するための団体と大きく異なっている.
 その意味で,1990年に発足した日本獣医師会の学会規約に,すべての獣医師会の会員は産業動物,小動物,公衆衛生のいずれかの学会に所属することと掲げたのは,当時として大英断であり,先見の明があった.

2 国際交流の必要性
 日本は資源に乏しい小国なので,貿易を通して発展する以外に道はないと古くからいわれ,その言は今も正しく,先人の努力の結果,学問,文学,芸術,産業,観光などのあらゆる分野,換言すれば人,物,金,情報などのすべてが,今日,日本と世界を縦横に往来している.
 獣医界においても同様であり,国際的に活躍している人は数多い.筆者の知るかぎりでも,故越智勇一氏の世界獣医学協会,故杉山文男氏のアジア獣医師会連合,
小澤義博氏の国際獣疫事務局,鈴木直義氏の日独獣医師協会,早崎峰夫氏の日仏獣医学会,故広瀬恒夫氏の国際画像診断学会,堤 可厚氏のアフリカ全域,野田浩正氏のエチオピア,上野 計氏のブラジル,藤本 胖氏らのザンビア大学獣医学部,小林好作氏のネパール・トリブバン大学,山城茂人氏のオンタリオ大学など枚挙にいとまがない.
 中でも特筆されるのは故竹内 啓氏である.竹内氏は獣医事審議会会長など国内の広範な活動にとどまらず,国際的にも日本獣医師会の学術・教育・研究担当理事として,幅広く世界各国の要人と交流し,各分野でパイオニアとしての重責を果たし,日本獣医界の地位向上に大きく貢献した.1例として,日本人唯一の世界小動物獣医学会会長を務めたことが挙げられよう.一方,1995年に横浜で開催された世界獣医学大会では組織委員長として活躍し,「その国の元首が出席されたことは,その国における獣医師の社会的な地位の高さを象徴している」と,海外の参加者から賞賛を浴びた.また獣医学教育改善のために何度も海外視察をし,充実した内容の報告書を残している.筆者は竹内氏ほど海外の獣医界に精通した人はいなかったと思い,早く第二の竹内氏が出てほしいと願っている.

3 組織の活動は若手を主体に
 平成9年度の日本獣医師会学会年次学会が仙台で開催された時に,産業動物獣医学会では特別講演の講師に世界的に高名な蹄病の権威,英国のDr. Weaver(グラスゴー大学教授を経て,米国ミズーリー大学教授となり,現在は退職)を招聘した.その際,理事会にも出席してもらい,表敬の挨拶を受けた.
 彼は開口一番,「理事の中で30代の方は手を上げて下さい.」と発言したが,誰もいなかった.ついで「40代の方は」と問われたが,やはり皆無であった.実際には50代が半数で,他の半数は60代以上であった.彼は大変奇異に感じたようで,英国では学会の執行部は40代と30代で占められ,50代以上の役員経験者は名誉職や顧問となって,学会の相談やアドバイザーの役を果たしているとのことであった.組織の直接的な管理・運営は若手に任せるのが一般的であるという.
 ひるがえって筆者の知る地方獣医師会では,理事の過半数が退役した方で,60代後半,70代の役員が中心であった.獣医師会の共通の悩みとして,若い獣医師が入会しない,獣医師会活動に参加しないことがあげられているが,むべなるかなである.
 平成15年度の九州地区連合会の獣医師大会と地方学会が宮崎で開催されるに先立って,学会評議員会が開催された.ある委員から,「近ごろの若い勤務獣医師は,仕事の忙しさにかまけてか,男も女も結婚せず,どんどん高齢化している.学会の折りに男女出会いの場を設けてはどうか.」との意見が出た.託児所はすでに配慮されているし,「それはよい考えだ」と,ほとんどの委員が賛成した.と,ある委員から,「趣旨は大いに結構ですが,どなたが準備しますか.部屋を提供するだけでは一人も寄りつかないでしょう.民間の結婚相談所がさまざまな工夫を凝らしているように,若い人達が自発的に企画運営するならば,喜んで協力すればよい.」との発言があった.その後,応ずる委員は一人も出ず,この提案は立ち消えとなった.

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