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資 料

 

10 ACE阻害剤使用の実態(表13)
 各種ACE阻害剤の使用状況は,表13に示した.374例中で最も多用されていたのがラミプリルで29.9%であった.ついで,エナラプリル,ベナゼプリル,テモカプリルが20.3%,19.5%及び19.3%でほぼ同等であった.そして,最後に市場に出たセタプリルが最も少なく7.2%であった.

表13


11 血管拡張剤使用の実態(表14)

 血管拡張剤の使用状況は,表14に示した.
 血管拡張剤を使用した132例中108例(81.8%)が硝酸イソソルビトであった.その次は,ニトログリセリンとジピリダモールであった.

表14


12 利尿剤使用の実態(表15)

 利尿剤の使用状況は,表15に示した.
 心内膜症の心不全から二次的に起こる肺水腫コントロールのため,利尿剤は多用される.最も多く使用されているのは,プロセミドに次いでトラセミドで,この両者は作用機序が同じループ系利尿剤なので,両者をあわせると94.6%に利尿剤が併用されていた.

表15


13 強心剤使用の実態(表16)

 強心剤の使用状況は,表16に示した.
 強心剤としては,古くから使用されているジギタリス(ジゴキシン)が22例,ピモベンダンとアミノフィリンが11例使用されていた.

表16


14 ACE阻害剤未使用例の他剤使用状況(表17)

 他剤使用状況は,表17に示した.
 例数的には多くないが,ACE阻害剤を使用せず,冠動脈拡張剤(硝酸イソソルビド),心不全治療剤(ピモペンダン),利尿剤(フロセミド,トラセミド)などが少数例に使用されていた.

表17


15 心臓用サプリメント使用の実態(表18)

 動物用サプリメントも非常に多くなってきたが,心臓用サプリメントはまだ非常に少なく,使用されている多くはアシスハートQ10で,これは心臓エキス,タウリン,ユビデカルノン(Q10)の複合剤であるためと思われる.

表18


16 治療剤による心不全改善状態(表19)

 心不全の改善状態は,表19に示した.
 収集した406例から,判定不能39例と死亡例29例を除いた338例の改善度から改善率を算出すると83.3%となり,ACE阻害剤の有効率と報告されている数値とほぼ同率のものであった.
 すなわち,心内膜症に関して現在の小動物医療では,投与例の約8割に治療による何らかの改善効果がみられた.

 表19

 

IV 総  括
 犬の心内膜症について小動物臨床現場での実態調査を実施した結果,表20に示したような診断・治療の実態を把握することができた.

  1. 本症の臨床診断は,全症例で適確に実施されており,かつNYHA指数による心不全度の判定も行われていた.
  2. 各種検査では,X線及び血液検査はほぼ6割の症例に実施されていた.ついで,心電図,超音波診断はまだ少なかった.
     超音波診断は,心内膜症の確定及び病勢度判定には最も適した診断法であり,実施率は20.4%にとどまっていたが,本検査では最も多く判定に使用されていた.逆流モザイクの診断は,カラー超音波のみで可能であるが,カラー用診断機器が高価なため,まだ普及が低いと思われる.
  3. 治療では,本症の治療薬のACE阻害剤が5種類発売されて,ACE阻害剤の本症に対する作用機序,安全性,有効性の情報が広く行き渡っており,一定期間以上の投与での効果が飼い主でも確認できるため,92.1%の症例に投与されていた.この投与率は一疾患に対しての治療剤としては驚異的な数値である.
     併用剤の使用は本症の進行に伴って心不全が進行するので絶対的に必要なため,利尿剤と冠動脈拡張剤が使用される.今回の調査では,ACE阻害剤に他剤併用は症例の51%に実施されていた.この数字は病勢度の進行したものに利尿剤や冠動脈拡張剤が併用されているものと思われた.

  以上の調査結果から,現時点の心内膜症の診断・治療に関しては,かなり適確な医療が行われていると判定された.
 今後は,さらに病勢度を適確に診断・治療するために,カラー超音波診断法の普及が望まれる.
 さらに,心内膜症の薬剤治療はコントロールが主体で根本的治療ではないため限界がある.根本的な療法として,現在すでに確立されつつある外科的な房室弁,特に僧帽弁置換手術が必要であり,今後はそれらを実施できる高度医療の可能な基幹動物医療センターの設置が必要である.

表20

 

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