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産業動物獣医療に必要な生産システムの考え方
纐纈雄三 † (明治大学農学部,養豚生産と疾病研究センター教授)![]() 産業動物臨床は大きく変化してきている.農場が大規模化することで動物生産がシステム化されてきているからである.システム化は養鶏が最も進んでおり,それに豚と牛が続いていると思われる.この総説では,養豚を例にして,生産システムと管理について述べる.また産業動物獣医療における疫学の重要性,及び生産データの活用,ベンチマーキング,その他キーワードについても解説する. 乳牛,肉牛,採卵鶏,肉用鶏では生物的な違いだけでなく,生産システムにも大きな違いがあるが,システムと管理という考え方はどの臨床分野でも応用可能であろう. |
1 農場の大型化にともなう生産システムの変化 日本の養豚は1974年から2004年までで,1戸当たりの平均飼養頭数は約38倍となった[15].そして飼養規模2,000頭以上の養豚農場で,日本の総生産量の50%以上を占めるようになってきている.しかしその2,000頭以上の養豚農場は総養豚農家数の約10%で900戸以下でしかない. 養豚だけでなく,30年前の1974年と比べると,他の産業動物の平均飼養頭羽数は採卵養鶏では180倍,ブロイラーでは6倍,酪農では6倍,肉牛で8.3倍となった[15].ブロイラーの倍数が少ないのは,30年前にすでに大型化が進んでいたためと思われる. 日本の産業動物生産は確実に大型化し,産業構造もシステムも経営技術も変化してきている[1, 11].その変化は,獣医療に多くの新しいニーズをもたらしている.産業動物獣医師は従来の個別治療とともに,生産者のために生産獣医療(production medicine)と群健康管理(herd health)を要求されるようになってきている. 群といっても動物個体への治療を無視するものでない.緊急時の処理や治療のほかに,定期的な農場巡回(herd visit)[18]の中で,混合した獣医療が現場では必要であろう.米国では群健康管理・生産医療・個別治療の3つをあわせて群獣医療(population medicine)と言っている. 米国養豚農場の例をあげると,普段は地元獣医師が,個別治療や群健康管理を行い,定期的または不定期的にコンサルタント獣医師が特別な生産指導を行っている.生産者にとっては地元に住む獣医師の存在は大切である. |
2 獣医師が生産の中で重要な役割を果たす領域 産業動物獣医師は動物を群としてとらえ,群健康管理及び生産管理を含めたシステムをサポートし,生産性の向上,生産の量と質の安定,及び安全な食料の供給をめざすことが望まれる.そして産業動物の獣医療として,生産農家の経営力の向上と利潤増大への貢献が最重要である[9]. 表1にあるように畜産農家の利潤の増大のためには,生産性だけでなくキロ当たりコストの低減,キロ当たり売り上げ増大,そして販売量の増大などバランスの取れた経営を指導することが大切である[11].また日々の生産性向上だけでなく疾病発生のリスク低減を忘れてはならない.そして利益に直接的貢献はしないが,安全な食品の原料であるという考えの啓発や,糞尿処理などの環境問題へ技術指導も大切である. 米国において産業動物獣医師には以下の分野についての専門知識が必要であるといわれている[2-4, 7, 9, 11].
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3 生産システムと管理 産業動物農場が大型化するにしたがって,個人の技でなく,枠組み(システム)で生産するようになってきている.米国において動物生産農場は,団体としての活動目的と事業計画に沿って,システムを組み合わせて生産活動をおこなうようになってきている. 生産システムの中で,システムを動かし生産の量と質を最適にしていくプロセスが「生産管理(management)」である.生産管理は農場巡回における実例として表1に,システム実例は表2に示した.農場巡回とは臨床獣医師が定期的に農場を訪れ,農場主または農場責任者とともに,農場を隅々まで見て回り(walk-thorough),動物群の健康状態や全生産のシステムと管理が効率的に機能しているかどうかを点検することである[5, 18].場合によっては,獣医師は生産システムの改良,再構成,新設を提案する. 表2に示したようなグループ生産,SEW,オールイン・オールアウト,マルチサイト生産などシステムを組み合わせて,動物の流れをよくすることが大切である. |
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