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解説・報告

11 投  薬  法
 ハムスター類への投薬は,一般に困難である.まれに液剤の経口投与を行うこともあるが,多くの場合は,注射による投薬を試みる.また,点眼や点耳,外用を行うこともある.

(1)経口投与
 ハムスター類に対して,液剤を経口投与することがある.1ml容量の注射筒の先端にビニル製のチューブを接続し,それをハムスターの口腔内に挿入して少量を投与する.
 また,この方法は,食欲が低下したハムスターに対して,半流動状にした餌を強制給餌する際にも応用される.
 ただし,経口的な投与を行う場合は,気道内に液剤が誤嚥されないように注意しなければならない.

(2)飲水投与
 飲水中に薬剤を混じて投与することもある.この場合は,ボトル状の給水びんを用いて給水を行い,毎日のおおよその飲水量を把握したうえで,それにあわせて薬剤を混ずる量を決定する.しかし,飲水に薬剤を混ずると,ハムスター類は通常よりも飲水量が低下しがちであり,十分な量の薬物を摂取させられなことが多い.一方,こうした現象を想定して高濃度に薬剤を混じると,ときに過剰投与となることがある.

(3)注  射
 注射法としては,皮下注射と筋肉内注射,腹腔内注射を行う.静脈内注射はきわめて困難である.注射針は,23ゲージまたは25ゲージのものを使用する.
皮下注射は,頸背部や側腹部の皮膚の弛んでいる部分に対して行い,1回の投与量は3〜5mlとする[4].
 一方,筋肉内注射は,臀部や大腿部の筋肉に対して実施し,1カ所に0.1mlの投与とする[4].
 腹腔内注射に際しては,動物の頭部を下向きにして保定し,右側下腹部の1/4の位置に注射を行う.1回の投与量は1〜4mlとする[4].

(4)点眼及び点耳,外用
 ハムスター類に対して,各種の点眼薬や点耳薬,外用薬を投与することがある.その際の方法は,犬や猫における方法に準拠する.

12 麻  酔  法
 ハムスター類に麻酔を行うには,イソフルランまたはセボフルランを使用することが推奨される.
 導入にはボックスを使用し,維持するにはハムスター用に作製したマスクを用いるとよいだろう.
 なお,ハムスター類に麻酔を施すと,急激に体温が低下する.ハムスター類の診療や入院に際しては,飼育環境の気温を20〜25℃に保っておく必要があるが,麻酔時には,さらに高温にすべきである.また,麻酔を施しているハムスターの下には保温のための電気マットを敷いておくことが望まれる.
13 鎮  痛  法
 手術など,疼痛をともなう処置を行った場合には,鎮痛薬を投与する.
 ハムスター類に使用する鎮痛薬に関しては,いまだ十分な知見が得られているとはいえないが,非麻酔性鎮痛薬(オピオイド)である酒石酸ブトルファノールや塩酸ブプレノルフィンを使用するとよいだろう.投薬量は酒石酸ブトルファノールはブトルファノールとして1〜5mg/kg,塩酸ブプレノルフィンはブプレノルフィンとして0.01〜0.1mg/kgをおおよその目安とし,皮下または筋肉内,あるいは腹腔内に投与する.
(以降,次号へつづく)

 

引 用 文 献
[1] 深瀬 徹:小動物臨床,18(4),71-84(1999)
[2] 深瀬 徹:動物臨床医学,7,167-175(1999)
[3] 深瀬 徹:日獣会誌,59,440-443(2006)
[4] Goodman G : BSAVA Manual of Exotic Pets, Meredith A. and Redrobe S ed, 4th ed, 26-33, British Small Animal Veterinary Association, Gloucester (2002)
[5] 石川幸子,鬼頭克也,山添由香里,山村尚子,長村 徹,岩崎利郎,北川 均,佐々木栄英,草野健一:日獣会誌,48,581-584(1995)
[6] West GB, Brown JH, Enquist BJ : Scaling in Biology, Brown JH and West GB ed, 87-112, Oxford University Press, New York (2000)



† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
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