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特別寄稿

私の歩んだ日本獣医師会の24年と今後の期待(V)

五十嵐幸男(日本獣医師会顧問・埼玉県獣医師会会員)

 平成14年(2002年)
 平成13年米国で炭疽菌の事件が発生し「貧者の核兵器」といわれる生物兵器に対する恐怖が新たな社会的脅威となり,さらに国内においてBSEの発生が国民の重大関心事となり,我々も緊張感で経過し,会員に対する情報提供,関係官庁との連絡,要請活動等に多忙の年であり,今年も次の重点事項を処理して参る予定である旨新年挨拶を述べ協力を求めた.
 [1] 獣医師道の高揚,特に小動物医療分野における倫理規範を見直し,実践的な行動を進める時代であること,[2] 各委員会の新委員による活動の積極化と,特に今回,東京大学林 良博農学部長を長とする組織財政委員会に法曹会,税理士界からの委員の参画も求め,広い視野から本会の課題及び中長期的展望,財政面での検討を依頼し,その答申により21世紀の体制整備を図ることとしたこと,[3] 獣医師生涯研修事業も試行3年目を迎え,教材の充実により一層推進したい.なお第1回のポイント取得証明書は,取得者への交付を終了したこと,[4] BSE発生以降,情報の迅速化を期し,社会的にも獣医師の活動をアピールするとともに,岩手大学・東京大学において日本獣医学会との共催によるシンポジウムを開催し,風評被害の拡大防止に努めた,[5] 狂犬病をはじめとする人と動物の共通感染症対策として,厚生省生活衛生局長や自民党麻生政調会長等に共通感染症対策の強化を要請し,厚生労働省より配布された「狂犬病対応ガイドライン2001」を熟読の上,対応に誤りなきを期待する,[6] 「動物の愛護及び管理に関する法律」の中で,動物が「命あるもの」として明記されたところであり,動物医療は勿論,動物虐待防止,飼い主責任の明確化を図るため個体識別の普及啓蒙推進の時期であり,一方九州地区獣医師会連合会が「ヤマネコ」保護活動を開始しているが野生動物の保護・救護対策も推進したい,[7] 獣医学教育の再編整備については日本学術会議の提言を尊重し,「獣医学教育のあり方に関する懇談会(東海大学黒川教授座長)」の提言を受け,その実現に運動中のところ,平成13年6月14日,国立大学長会議席上遠山文科相から,第1に「国立大学の再編統合は大胆に進める」,第2に,「国立大学に民間的発想の経営手法を導入する」.第3に,「大学に第三者評価による競争原理導入する」との構造改革の方針を示されたことにはじまり,大学全般に対する改編が重要課題となり,獣医学教育においては,今後とも,学術的に高度で実務能力のある人材養成を行い得る教育実施を望む.[8] 日本獣医学会との連繋の強化に関し,すでに日本獣医学会との共催によるシンポジウムを開催すると共に,日本獣医畜産大学で開催の学術集会でも「今後の動物医療の方向と獣医学教育のあり方」のシンポジウムを開催する予定であり,平成15年秋,北里大学の学術集会及び青森県獣担当の東北地区三学会の同時開催についても関係者前向きに検討を進めていること,[9] 家畜伝染病予防法施行50周年記念事業の実施については,当初,平成13年12月開催を予定していたが,BSE発生による緊急対応のため,平成14年3月26日に変更し,目下準備作業中であること,[10] 獣医師の福祉共済事業の充実等を述べ,会員のご協力を願い元気ある組織としての発展を期することとした.
 なお,炭疽防疫の重要性に鑑み,会長会議席上,井上 勇元日本大学教授より炭疽防疫の話題を提供していただき,内田郁夫動衛研主任研究官の「家畜における炭疽の診断と防疫」の論文も本誌第55巻第2号に掲載した.
 平成14年に入りBSE関連知識普及事業として日本中央競馬会から助成を受け,2月17日埼玉県,3月2日石川県,8月29日栃木県,12月5日東京都,12月18日岐阜県等においてBSEの特性や食の安全性に関する講習会が開催され,それぞれ一般人の参加も得て全国的に進められ盛会裡で好評をいただいた.
 また,わが国で最初のBSE感染牛発症の貴重な体験をした千葉県の伊藤 健氏より,発症当初からの詳細な経過についての記事を本誌第55巻第3号に掲載し,農林水産省が中心となって進めたBSEサーベイランスの重要性を訴えた.さらに沢谷廣志全国食肉衛生検査所協議会長の「公衆衛生分野におけるBSEの対策と取り組み」の論述も貴重なご意見であり,日本の「BSE全頭検査」が消費者への絶対的安全・安心策である旨も明記された.

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