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解説・報告

11 毛球症と胃腸内異物
(1)毛 球 症
 ウサギがグルーミングを行う際に舌で噛み取った被毛が嚥下され,それが糞便中に排泄されず,消化管内で毛塊を形成することがある.これが毛球であり,毛球によって何らかの症状が発現した状態が毛球症である.
 特に妊娠中の雌のウサギは,分娩直前に自身の被毛を噛み取り,それを巣材として使用するといわれる.このとき,噛み取った被毛の一部が嚥下されると,毛球の原因になると考えられる.しかし,実際には分娩前の雌に限らず,ペットとして飼育されているウサギは,絶えずグルーミングを行い,また,ある程度は被毛を噛み取っているようである.したがって,ウサギの胃内には多少の毛球が存在していることが多く,毛球症は常に発生する可能性がある.
 以上のことから,ウサギの胃にある程度の毛球が存在しても,それをもってただちに疾病と判断することはできない.ただし,食欲が低下したり,消化管の通過障害が発生したような場合には,治療が必要である.毛球症,特に腸管における毛球症の治療には,メトクロプラミドなど,腸管の蠕動を促進する薬物を投与する.また,対症的に,輸液や流動食の給与を実施する.なお,重症例に対しては,胃あるいは腸の切開を行い,毛球を摘出するが,どのような症例を手術適応と判断するかは難しい問題である.
 毛球症を予防するには,飼い主がウサギの被毛のブラッシングを高頻度に行うなど,日常的な管理が重要である.
 なお,ウサギの毛球症の予防のため,場合によっては治療に際しても,パイナップルジュースを飲ませるとよいといわれるが,これはパイナップルに含まれる蛋白質分解酵素であるブロメラインの作用を期待してのことである.しかし,ブロメラインの至適pHは,基質によっても異なるが,おおよそ5〜7である.pHがこの範囲になくても,3〜9の範囲であればブロメラインは作用を発現するであろうが,そうであっても,さらに強い酸性条件にある胃内で高い活性を示すとは考えにくい.すなわち,パイナップルジュース中のブロメラインは,たとえ失活しないで存在していたとしても,ウサギの胃内において十分な毛球形成予防効果を示したり,あるいはすでに形成された毛球を溶解する可能性は低いように思われる.ただし,胃を通過する際に失活しなければ,ブロメラインは腸管内では作用する可能性がある[4].
(2)胃腸内異物
 ウサギの消化管内異物の原因としては,上述の毛球がもっとも多いが,このほかにもさまざまな異物の誤飲も発生する.たとえば,タオルや室内に敷かれているカーペットなどを噛み切って嚥下し,それが胃腸内にとどまって塊状になることによって症状を発するようになる.このとき,異物のみが存在することもあるが,毛球が絡まり,そのために異物がさらに排泄されにくくなっていることも多い.
 症状は,軽症の場合は食欲の低下などがみられるにすぎないが,重症になると,消化管が閉塞し,鼓脹などが発生する.
 治療は,胃切開または腸切開による異物の摘出がもっとも確実である[4].

 

引 用 文 献
[1] Clarke KW, Hall LW : J Assoc Vet Anaesthetists, 17, 4-10 (1990)
[2] 深瀬 徹:獣畜新報,51,31-32(1998)
[3] 深瀬 徹:獣畜新報,51,114-115(1998)
[4] 深瀬 徹:獣畜新報,51,198-199(1998)
[5] 深瀬 徹:獣畜新報,51,291-292(1998)
[6] 深瀬 徹:獣畜新報,52,31-32(1999)
[7] 深瀬 徹:日獣会誌,59,87-89(2006)
[8] 深瀬 徹:日獣会誌,59,155-157(2006)
[9] Olson ME, Vizzutti D, Morck DW, Cox AK : Can J Vet Res, 57, 254-258 (1993)

(以降,次号につづく)


† 連絡責任者: 深瀬 徹
(明治薬科大学薬学部薬学教育研究センター基礎生物学部門)
〒204-8588 清瀬市野塩2-522-1
TEL 0424-95-8859 FAX 0424-95-8415


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