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 3 薬事法の規制とポジティブリスト制度への対応
 ポジティブリスト制度に対応するために,農林水産省は,「投与後,定められた休薬期間経過後に生産される畜水産物が食品衛生法による規制に適合する.」よう対策を行っている.つまり,農林水産大臣が製造販売承認している動物用医薬品について,薬事法の規定に基づいて動物用医薬品の使用の規制に関する農林水産省令(昭和55年農林水産省令第42号)により定めている使用基準及び個々の動物用医薬品について承認している休薬期間をポジティブリスト制度に適合するように改正または変更し,食品衛生法による新しい規格基準に適合する畜水産物が生産されるよう規制していくこととしている.なお,使用基準を設ける医薬品においては「使用禁止期間」,使用基準のない医薬品の承認においては「休薬期間」という表現をしているが,意味するところは同じで,食用に供するためにと殺,搾乳,採卵,はちみつ等の採取をする前に医薬品を投与してはならない期間である.
 具体的には,現在製造販売承認されている動物用医薬品の使用基準及び休薬期間が食品衛生法の新しい規格基準に適合しているかどうかについて,これらの承認申請の際の対象動物を用いた残留試験資料,再評価の際の残留試験に関する資料を用いて確認する(ステップ1),学術文献等を用いて確認する(ステップ2),農林水産省が新たに残留試験を実施して確認する(ステップ3,承認された休薬期間経過後の1時点で採材し分析する試験)及びさらに残留試験を実施して新しい使用基準または休薬期間を設定する(ステップ4,医薬品投与後数時点で採材し分析する試験)の4段階の作業を実施し,必要があれば現行の使用基準の使用禁止期間または承認の休薬期間を延長して対応する.ただし,ポジティブリスト制度の導入までの限られた時間と予算を有効に活用するため,現行の使用基準がある動物用医薬品と残留基準(暫定基準)が新たに設定される動物用医薬品について優先的に作業を進めた.なお,これらの対応方針,検討内容及び施策への反映(使用基準の改正,承認の休薬期間の変更等)については薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて決定している.この作業のフローチャートを図2に示した.

(1)使用基準による対応
 使用基準については,[1]現在動物用医薬品として製造販売承認がない医薬品の基準を削除する,[2]新たに使用基準を追加する,[3]現在の使用基準の内容を変更する,の3つの内容を含む改正をポジティブリスト制度の施行と同時に実施する(農林水産省令改正施行日は平成18年5月29日).
 また,従来使用基準は抗菌性物質と残留基準のある内部/外部寄生虫駆除薬について設定してきたが,ポジティブリスト制度の下ではこれら以外の薬効分類の動物用医薬品についても残留基準が設定されるため,今回の改正以降はさまざまな効能・効果の医薬品についても使用基準に収載されることになる.最近の改正案の内容については,農林水産省動物医薬品検査所のホームページ(http://www.nval.go.jp)でご覧いただきたい.
(2)休薬期間による対応
 暫定基準が設定される動物用医薬品には,一部の対象動物についての使用禁止期間の決定のための試験資料が十分でなかった等の理由でポジティブリスト制度の施行と同時の使用基準設定ができなかったものがある.また,暫定基準が設定されなかった動物用医薬品のうち,使用方法等から畜水産物に残留する可能性があると推定されるものについては,残留試験成績,吸収・排泄・体内分布等の試験成績,物理化学的性質,他の対象動物の試験成績,類似の性質の動物用医薬品の試験成績を広く総合的に考察し,休薬期間の設定または承認された休薬期間の変更をする.これらの場合には個々の動物用医薬品ごとの対応となるので,個々の製品に変更を記載した説明書を添付するなど獣医師及び使用者に対する情報提供に努めていきたい.不明な場合には当該製剤の製造販売業者に問い合わせいただくか,農林水産省動物用医薬品検査所のホームページでご覧いただきたい.

図2 残留基準が設定されるものについての作業

 図2 残留基準が設定されるものについての作業 
 4 農林水産省の今後の対応
(1)厚生労働省による暫定基準の見直し
 残留基準は,本来その物質の毒性試験成績から得られた無影響量を安全係数で除して算出される1日摂取許容量(ADI)と残留試験成績等に基づいて算出されるものであるが,今回設定された暫定基準はそのような評価方法によって設定されたものではなく,動物用医薬品については承認申請時の残留試験の検出限界値や各国の残留基準値を根拠として,食品安全委員会による通常の評価を受けずに,暫定的に設定された値であるので,厚生労働省はポジティブリスト制度の施行後5年間を目途とし,食品安全委員会による暫定基準値の評価を受けて,必要な修正を行っていく予定としている.
(2)今後の使用基準の改正,休薬期間の変更
 農林水産省は,厚生労働省の暫定基準値の見直しの結果に対応した使用基準の改正や休薬期間の変更を行っていく予定である.また,ポジティブリスト制度の施行までに使用基準が設定されなかった動物用医薬品や新たに実施された残留試験成績等により休薬期間の延長が必要であると判明した動物用医薬品については,今後も引き続き使用基準の設定,休薬期間の変更を行っていく予定である.
 

 5 診療獣医師の方々へのお願い
 食品衛生法違反を未然に防止するために,診療獣医師の方々に以下の対応をお願いしたいと考えている.特に,使用基準改正とポジティブリスト制度の施行日が同じ日(5月29日)であるので,改正により使用禁止期間の延長が行われる医薬品については,改正前の使用時には使用禁止期間を遵守して使用したにもかかわらず,施行日を過ぎて食品となった時にはその時点の残留基準値を超えて残留してしまう場合もあるので,このような医薬品を施行日間近に使用する場合には,十分注意していただきたい.たとえば,使用禁止期間が7日の医薬品の使用禁止期間が14日に延長され,これを5月20日に使用した家畜を5月30日にと殺する場合には,使用時点の薬事法の規制には適合しているが,ポジティブリスト制度の下での新しい残留基準値を超えてしまい,食品衛生法には適合しない畜産物が生産される可能性があることになる.

(1)最新の使用基準及び休薬期間を正確に把握し,遵守すること.
○使用基準の改正によって使用禁止期間が延長される医薬品がある(表1参照).
○使用基準に新たに収載される医薬品には,従来の承認の休薬期間より長い使用禁止期間となるものがある(表2参照).
○使用基準に収載されていない医薬品の中にも,従来の承認の休薬期間より長い休薬期間となるものがある.本稿作成段階ではまだ示すことができないが,本誌発行時には確定しているので,製造販売会社にお問い合わせいただくか,農林水産省動物医薬品検査所のホームページでご覧いただきたい.
○今後も使用基準の改正,休薬期間の変更があるので,引き続き注意いただきたい.

(2)動物用医薬品の承認されている用法・用量以外の使用方法を避けること.もし,承認と異なる対象動物,承認と異なる投与経路,承認より多い用量で使用する場合には,安全のために休薬期間を十分に長くとること.
○対象動物により残留基準値が異なる場合がある.
○対象動物により,吸収,分布,排泄が異なる場合がある.

(3)人体用医薬品を食用動物に使用する場合には,残留基準値の有無を確認の上,類似の化学構造の動物用医薬品を参考にするなどして使用すること.
○人体用医薬品には残留基準が設定されていないものが多くある.

(4)個人輸入により購入した国内承認のない動物用医薬品を食用動物に使用する場合には,輸入元の残留基準と日本の残留基準の相違を確認し,異なる場合には添付文書の休薬期間を遵守しても日本の残留基準に適合しない場合があることを考慮し,十分な休薬期間を適用すること.
○外国の残留基準値と日本の残留基準値には大きいものでは約100倍もの差がある.

(5)農家にポジティブリスト制度について理解を促し,動物用医薬品の使用について適切な指示をし,休薬期間の遵守を指導するとともに,使用の記録を付けるよう指導すること.
○使用の記録については,農林水産省動物医薬品検査所のホームページに簡単な説明があるので,参考とされたい.

 

表1

表2

 6 終 わ り に
 以上,農薬等のポジティブリスト制度と動物用医薬品に関する農林水産省のその対応について述べた.この制度について,臨床獣医師の皆様が理解され,適切に対応されるよう協力いただきたい.今後もいろいろな媒体を用いて制度について引き続きお知らせしたい.

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† 連絡責任者: 遠藤裕子(農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課)
〒100-8950 千代田区霞が関1-2-1
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